狂った世界 (クルッタ セカイ)4
「一体どうなっているんだ……」
クリスは溜息をついた。さきほどから頭痛がする。
博士の死体が発見されてから随分と経った。さっさと国に帰りたいのは確かだが、彼らにはここを去れない理由がある。
「私たちとここから出ない?」
メグリヤは玲と鈴を説得している途中だった。二人は首を縦に振ってくれない。保護者がいなくなってしまった子供を放っておくことなど、彼らにはできなかったのだ。
その時、ずっと黙っていたウィリアムが立ち上がって言った。
「帰るぞ」
「でも」メグリヤが言う。
「無理やり連れて行く必要はないだろう。私たちにそんな責任はない。大体、ここにはキリエという女がいるじゃないか」
メグリヤは口をつぐんでしまった。
調査によると、この双子は博士ともキリエとも血の繋がりは無いらしい。だが、彼らが保護者だということに間違いはなかった。ウィリアムの言う通りだ、自分が介入する隙間などない。
「そういえば、キリエは?」
クリスはふっと顔を上げて辺りを見渡す。そこにキリエの姿はなかった。
「みんなで探しに行こう。博士を殺した犯人が分からない今、一人で行動するのは危険だ」
暫くして、玲がクリスに声をかけた。
「キリエさん、もしかしたら自分の部屋で寝ているのかもしれないわ」
その時、仲間から報告があった。「どこにもいないぞ」
それを聞き、クリスは頷いた。
「……行ってみよう」
「キリエさん! キリエさん!!」
呼んでみる。だが返答がない。ドアノブを回してみるが、ドアの鍵はかかっていた。
「こうなったら仕方がない。玲、彼女の部屋の鍵を持ってないか?」
「それが……」
玲は俯いて言った。「昨日から、鍵が見当たらないの。普段は食堂に置いてあるのに……」
「分かった、扉をブチ破ろう」
キリエは死んでいた、誰も入れない状態の部屋の中で。
彼女は首を吊っていた。首の締め方に不自然なところは見当たらなかった。遺書らしきものと、鍵の束が机の上に置いてある。
『罪を犯したのは私です』
ワープロで打ったものらしい。それだけしか書かれていなかった。
「博士を殺したのは彼女、ってことか?」
「ふざけるなっ!」
それまで黙っていた鈴が絶叫に近い声を上げた。クリスたちは驚いて鈴を見た。
「キリエさんが、博士を殺すわけがない!!」
そう言い放った彼は、肩で息をしていた。涙で頬が濡れていた。
「お前たちが来たから博士とキリエさんは死んだんだ!」
―――この悪夢はいつまで続くんだ。何がどうなっている。
「……僕は違う。僕は犯人じゃない。それに、玲が博士たちを殺すなんてことするはずがないんだ。どう考えても、あんた達の中にしか犯人はいないんだよ」
「落ち着け。今までの私たちには博士との関わりがなかった。今回ここに訪れたのは、彼に協力してもらいたいことがあったからだ。私たちが彼らを殺して何の得になると言うんだ?」
ウィリアムは淡々と言った。
「……分からない。でもっ、僕と玲は違う!!」
裏切り者は誰だ?