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番外編15.うれしいのかたち


「なんだか、あゆむ前より雰囲気が柔らかくなったね」


 4月からの授業説明のため大学に行ったら友達からそう言われた。


「そうかな?」

 首を傾げる。


「うん。なんか話しかけやすくなった。前はなんかこう、ちょっとピリッとしてた感じ」


 言いにくそうに、でもはっきりという同級生。

 その言葉を聞いてぼくも笑う。


「うん。でもそうかも」


 (きっと咲太郎のおかげだ)


 咲太郎のことを頭に浮かべる。



「おっ、なんか今いい顔してる。あゆむ今恋人いるの?」

 目を輝かせて聞いてくる友達。


「うん。いる。大切な人」

 少しだけ弾んだ声が出た。

 

 その声にぼく自身がびっくりする。

 目を見張って驚く友達。


「あゆむ。今の方がいいよ。いい顔してる」

 そう言って笑ってくれた。


 隣で話を聞いてた別の友達が身を乗り出してきた。


「俺もその話聞きたい。あゆむ確かに前よりやわらなくなったし、スマホ見て笑う回数増えてたから気になってたんだよな」

 そう言ってくる。


 2人とも「だよな。変わったよな」そう言って顔を見合わせて頷いてる。



 咲太郎のことを褒められてるような、そんな気がして嬉しい。

「で。あゆむの恋人ってどんな人?これまでそんな話してくれたことないじゃん」



 これまではそんな話は避けてた。


 話せることが何もなかったから。

 だから、聞かれても曖昧に笑って誤魔化してた。


 でも。

 今は。


 (咲太郎のこと話したい)


 自然とそう思えた。


「すっごい元気だよ。それに明るいんだ」

 そう伝えた。


「へぇ。だからあゆむが明るくなって話しやすく感じるのかな」

「もしかして、カバンの鈴はおそろい?」


 ぼくのカバンを指さして聞いてくる。


「あっ、うん。そうだよ。初詣で買ったんだ」


 鈴をそっと手で握る。


 冷たい鈴の感覚。

 握ると頭の中に『あゆく——ん!』とぼくの名前を呼ぶ咲太郎の声が響いた。



 (ふふっ。どこにいても咲太郎がいる)


 心の中でおかしくなって笑う。


「いい恋人なんだな。鈴を握った時のあゆむの顔いいよ」

 友達がそう言ってくれた。


「あっ、もしかしてあゆむのアイコンのネコはその恋人?」

 もう1人の友達がそう言ってくる。


「うん。よく分かったね」

 ちょっと驚くぼく。



「いや……あの、アイコン変わった時意外だなって思ったんだ」

 少し言いにくそうにぼくのことを見てくる友達。


 ぼくはよく意味がわからなくて首を傾げた。


「なんというか……あゆむらしくないなって。最初は空の写真だったろ?それから初期に戻って、その後あのネコだから……」

「あっ、わかる。あの時はあゆむらしくない可愛いネコだなって思った」


 もう1人の友達も同意する。


「でも、今はわかる。今のあゆむの雰囲気でてる」

 2人とも声を揃えてそう言った。


 3人で顔を見合わせて笑う。


「2人とも声揃えて同じことを言うなんて」

「だよな」

「思ってること同じだったな」


 ひとしきり笑った。


「うん。あゆむ今の方がいいよ」

 2人ともそう言ってくれる。


「うん。ありがとう。ぼくも今のぼく好きだよ」

 静かにそう言った。



「また新学期、恋人のこと聞かせてくれよ」

 そう言って2人は講義室から出て行った。



 帰ろうとしてたけど、カバンからスマホを取り出す。

 咲太郎のアイコンを呼び出す。



『咲太郎、今日は会える?』


 講義室の時計をみる。

 この時間ならお昼休みかな?スマホ見るかな?


『あゆくんからデートのお誘い?きゃ——!嬉しい——!』

『あゆくん今日学校で説明会じゃないの?たろう会えるの?』


 咲太郎らしい文面に思わず笑みが溢れる。


『説明会終わったよ。ぼくが今日校門まで行く。何時に終わる?』


『それがねぇ——!今日は午後から先生たちの研修会でないのぉ』

『たろうもあゆくんに連絡しようと思ってたのぉ。きゃ——!繋がってるねぇ』


 ポンポンと送られてくるメール。

 どれもが咲太郎らしい。



 駅で待ち合わせすることを決めてスマホをカバンに入れた。

 時計を見たら少し走れば予定の電車より一本早めに乗れそうだ。


 (咲太郎を待って驚かせよう)


 そう決めてカバンを肩にかけて走り出した。


 カバンが揺れるとチリン、チリン。と鳴る。

 咲太郎に近づいてる音に聞こえる。


 予定より一本早めの電車に乗れてそのまま駅の改札を出る。


「あれ?咲太郎?」


 ぼくの方が早いと思ったのに、咲太郎はもう着いてた。


 ぼくの姿を見つけて両手をブンブン振ってる咲太郎。


 咲太郎らしくて、その姿を見るだけでもう楽しい。


 (咲太郎と一緒にいると笑顔じゃない日が来ない)


 走って咲太郎の元に行く。


「ごめんね。待たせたね」

「ううん。たろうが早く会いたくて走ったの」


「ぼくも。咲太郎に早く会いたくて走って電車一本早いので乗ったんだ」

 自分の体を抱きしめる咲太郎。


「ぴやぁぁぁぁ——!嬉しい——!」


 咲太郎の姿にぼくも、もっと笑顔になる。


 (今から友達の話したら咲太郎どうなるかな)


 その時の様子を想像するだけでワクワクする。


「あのね。今日嬉しいことがあったんだ」

「そーなのぉ?」


 目をぱちぱちしてぼくの顔を見てくれる咲太郎。


「うん。だからその話をしたくて」

「きゃ——!嬉しいことをたろうに1番に話してくれるのぉ?」


「うん。咲太郎に話したかったんだ。お店入って話す?」

 咲太郎にそう聞いてみる。


 咲太郎は、んー。とほっぺに手をつけて悩んでる。


 パッと顔をあげてぼくのことをみる。


 そして、にんまりと笑った。

「お店に行きながらお話しきくぅ——!そしたらあゆくんとくっついていられるもん」


 (本当可愛い)


「わかった。じゃあ咲太郎が好きなパフェのお店?クレープ?ハンバーグ?」

「ん——とねぇ。今日はあゆくんのいいお話聞くからあゆくんの好きな抹茶のお店!」


 咲太郎は、そう言ってぼくの手を握って歩き始めた。


(咲太郎にどれから話そう)

(アイコン?それとも雰囲気?)

(それとも……恋人いるよって話?)


 咲太郎の温もりを左手に感じながら口を開いた。

 

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