第61話:西野優人の異能
様々な異能を開花する戦乙女たち。
その遺伝子を継ぐ者にも異能はあるのか?
答えは、民宿西野オーナー・西野優人が持っていた。
「次は冬休みに帰ってくるね」
「セリオス君たちも、また遊びにおいで」
「ありがとうございます。また来ます」
「愛歌のことだから心配いらないけど、身体に気を付けてね」
「はーい」
夏休みが終わる8月末。
愛歌とセリオスを見送る人々の中に、民宿西野のスタッフ用Tシャツを着たアナスタシアもいる。
宗谷学園がある市街地へ向かうバスに乗り込むのは、愛歌、セリオス、春樹、美冬。
セリオスの護衛騎士たちもバスに乗り込んだ。
その様子を、雑木林の茂みに隠れて観察する暗殺者と偵察者がいた。
「アナスタシア側妃から護衛が離れるぞ」
「奴らが去った後に、側妃を片付けよう」
愛歌や騎士たちがセリオスに同行するのを好機と見た男たち。
彼らは、バスが走り去った後に行動を開始した。
「あいつさえいなければ、これを止められる奴はいないだろ」
自作の消音銃を構えるのは、スナイパータイプの暗殺者。
アナスタシアが門の外にいるうちにと発射した弾丸は、標的を撃ち抜くことはできなかった。
弾丸はアナスタシアめがけて飛んできたが、横にいた優人がスッと踏み出て、両手でパチンと叩いて止めてしまう。
所謂真剣白刃取りの要領だ。
「なっ?!」
「う、嘘だろ……」
驚愕する暗殺者に、汗と鼻水を垂らして呆然とする偵察者。
一方の優人は弾丸を挟んでいた両手を離して、ポロッと落ちた物を拾い上げている。
「ん? 虫かと思ったら鉛玉か」
「あらやだ、そんなの当たったら怪我するじゃない」
拾い上げた弾丸を見て、呑気な口調で言うのは西野夫妻。
「あっちから飛んできたね」
「返してあげたら?」
同じく呑気に言うのは西野家の双子。
西野家の人々は平然としていて、狙われたアナスタシアだけが驚いたり青ざめたりしている。
「преследование(追撃)」
片手の指先で弾丸をつまんで見つめていた優人が、帝国語でポツリと呟く。
普段は柔和なイケメンの顔が、一瞬だけ鋭い目つきになる。
その瞳の色が、緑から紫に変わった。
直後、弾丸がフッと手元から消え去る。
優人の手を離れた弾丸は、音速を超えた速度で暗殺者めがけて飛んだ。
「……チッ、あいつも化け物か」
暗殺者が2発目を撃とうとアナスタシアに向けた銃口に、飛んできた弾丸がスポッと入り込む。
今まさに発射されようとしていた弾丸に、銃口から入った弾丸が激突した。
2つの弾丸は粉々に砕け、その勢いで銃そのものも破裂する。
「?!」
「……う……嘘……だろ……」
ギョッとする偵察者の横で、破裂した銃の残骸が幾つも刺さった暗殺者が蒼白な顔で呟く。
ポタポタと血が滴るが、本人は驚きのあまり痛みを感じなかった。
「さ、そろそろ家に入ろう」
優人はいつもの穏やかな表情に戻って皆に声をかける。
アメジストのような紫色に変わった瞳の色は、表情が和らぐと共に普段の緑色に戻っていった。
優人の異能は、物体を飛ばして敵を追撃する力。
飛んできた弾丸を両手で挟んで止めたのは、基本の身体能力によるもの。
祖先の遺伝子は、彼の中にもしっかりと活きている。
愛歌がいないからといって、アナスタシアを暗殺できる筈がなかった。




