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【第一部完結】雪割草の咲く頃に  作者: BIRD
異能を継ぐ者

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第56話:イリーナとナジンカ

 帝国領土の南西部にある草原地帯。

 遥かな昔、合計456回もの核実験に使用されたセミパラチンスク核実験場跡地。

 その地にあるチャガン湖は、旧ソビエト連邦が核爆発によって大地を吹き飛ばして作った湖で、湖とその付近は放射能汚染が激しく、現在も高線量の放射線が観測されている。

 チャガン湖はその成因および放射能汚染度の高さから、「原子の湖」(Atomic Lake) という別名をもっていた。

 その水中の放射性核種は許容基準値の約100倍といわれている。

 古代に何度も行われた実験が残した有害物質は、今も人々や生き物たちをを苦しめていた。



 その日、湖のほとりに1羽の白鳥が降り立った。

 白鳥は白い光に包まれ、光が縦に伸びると1人の乙女に変化する。

 乙女は湖岸に佇み、祈りを捧げるように両手を組み、異能を発動する言語を呟いた。


「очистка воды(水の浄化)、yлучшение грунтов(土壌の改善)」


 7番目の異能に目覚めたのは、「平和」という意味の名を与えられたイリーナ。

 彼女は、土や水・地質や水質を操る力をもっていた。


 発動言語に応じて、イリーナの足元の地面が白い光に覆われる。

 光は一気に広がり、湖全体を覆う。

 光は更に範囲を広げ、大地を覆っていく。

 雪よりも白く清らかな光。

 光は土や水の中に入り込み、古代の兵器が遺した物質を分解する。


 イリーナの異能は、土や水から放射性物質を除去し、大地や湖を清浄なものに変える力。

 光以外は人の目に見えないが、奇跡のような異能によって、核実験場跡地は実験が行われる以前よりも清浄な水と土をもつ場所に変わる。

 地球誕生から現在までの年月を経ても消えないとされていたウラン系の有害物質さえも、完全に分解されて消え去った。


「汚染レベル0、遂に古代人が遺した【毒】が消えましたね」

「土の状態も作物を育てられるくらいに良くなっています」

「水も飲めるくらいの清浄値ですよ」


 無人探査機から送られてくるデータをチェックしながら、ヴォルグ軍兵士たちが興奮気味に報告する。

 執務室のモニターで報告を受け取るヴォルグは、満足そうな笑みを浮かべた。



 ◇◆◇◆◇



 8番目の異能に目覚めたのは、「希望」という意味の名を与えられたナジンカ。

 彼女は、生命や遺伝子に働きかける異能をもっていた。

 怪我などの回復なら支援系の異能者アリョーナもできるが、ナジンカは治療に特化している。

 ナジンカの異能は、細胞の異常によって発症する癌や白血病、先天性の奇形すらも正常化する力。

 その力は、祖先の被爆によって遺伝子に刻み付けられた異常をも治療した。


「Полное восстановление(完全なる治癒)」


 チャガン湖から近い、小さな村。

 ナジンカは1人の赤ん坊を抱き、異能を発動する言語を呟いた。

 赤ん坊の身体を、白い靄のようなものが包む。


 赤ん坊の両手は欠損しており、肘から先が無い。

 この村では、ほとんどの赤ん坊が身体のどこかに障害をもって生まれてくる。

 癌、白血病、死産、障害を苦にした自殺も多かった。


 白い靄に包まれた後、赤ん坊の両腕が伸びて、手指が形成された。

 奇跡の瞬間を見た村人たちが、驚きに目を見開く。

 ナジンカは優しく微笑み、近くに待機している母親に赤ん坊を手渡した。


「これで信じてもらえるかしら? 治療を受けたい方は、私の周りに集まって下さい」


 穏やかな声に引き寄せられるように、村人たちがナジンカを囲む。

 ナジンカは祈るように両手を組むと、その身体から神々しい光を放った。

 手足が無かったり身体の一部が膨れ上がったりしていた村人たち。

 その身体は、光に包まれた途端に本来あるべき形へと変わり始める。


「……おぉ……私の手が……」

「痛みが消えた……!」

「奇跡だ……!」

「神の使いだ……!」


 人々は、一斉に跪く。

 彼等には、苦しみから解放してくれた美しい乙女が、天使のように思えた。


「私は、第二皇子ヴォルグ様に仕えています。神の使いではなく、ヴォルグ様の使いですよ」


 ナジンカは微笑んで告げる。

 ヴォルグは苦しむ人々を救ってくれる、という意味を含めて。

 彼女は、武力ではなく治癒の力で、人々をヴォルグに従わせていった。

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