第55話:剛力のフェオドラ
6番目の異能に目覚めたのは、「神の贈り物」という意味の名をもつフェオドラ。
彼女の力は、姉妹の中でも飛び抜けて強い筋力だった。
「……う……嘘……だろ……?」
ヴォルグ軍による無血制圧後。
ペルミの支配権を奪還すべく送り出されたヒュブリス軍の兵士たちは、またもありえないことに驚愕していた。
「こんなもの、無駄よ」
そう呟くと、美女はハイヒールの爪先で弾丸をつついて転がす。
兵士たちは、たった1人の乙女に圧倒されていた。
彼女は武器も防具も持たず、長い黄金の髪と白いドレスを風に揺らしながら歩み寄ってくる。
「と、止まれ!」
上擦った声で叫ばれても、乙女は立ち止まらない。
勝ち誇ったような笑みを浮かべて、悠々と歩く。
再び一斉に放たれる弾丸は、フェオドラに全くダメージを与えられなかった。
「くすぐったいから、やめてくれる?」
フェオドラは無傷で微笑む。
銃弾は確かに彼女に当たっているのに、皮膚を傷つけることすらできない。
弾丸は全て跳ね返されて、地面に転がっていた。
「си́ла(剛力)」
フェオドラは微笑みながら呟く。
目視では全く変化が分からないが、異能によって彼女の筋力は超人の域まで上昇した。
「ちょっと貸して」
涼しい顔で悠々と歩み寄ってきた乙女は、発砲した兵士たちが持っていた銃をヒョイヒョイと取り上げていく。
驚きのあまり固まっている兵士たちに囲まれた中で、フェオドラは軽々と持っていた銃を紙屑でも扱うようにグシャッと丸めてしまった。
「返すわ」
「?!」
原型を留めず、もはや丸い鉄の塊と化してしまった銃を、フェオドラはポイッと投げてよこす。
とっさに受け取った若い兵士は、そのあまりの重さに前のめりになった。
軍用長銃十数個ほどが圧縮された鉄の玉を、バスケットボールでも投げるように軽々と扱う女性に、兵士たちは驚愕するしかなかった。
そんな彼等に構わず、フェオドラは兵士たちの間を通り抜けて戦車に歩み寄る。
「く、来るなっ!」
慄きながら、戦車のコクピットに座る兵士が叫ぶ。
その声は、戦車の外にいる兵士たちには聞こえていない。
聴力に優れたフェオドラには聞こえているが、そんな言葉に従うつもりはなかった。
「ダメよ、こんなもの撃ったら。街が壊れるでしょ?」
彼女は子供でも叱るような口調で言うと、戦車の1台に近付き両手をかける。
次の瞬間、戦車はまるでパンか何かをちぎるように左右に引き裂かれてしまった。
「……」
真っ二つになった戦車の間に落下して尻餅をつく兵士が、目を見開いて恐怖の表情を浮かべ、涙と鼻水を垂れ流している。
フェオドラはそれを放置して、次々に戦車を引き裂いていった。
為す術もなく全ての武器や兵器を破壊された兵士たちは完全に戦意を失い、腰を抜かして地面に座り込んでいる。
「……さて、お前たち、ヴォルグ様に従うなら命はとらぬが、どうする? それとも、あの戦車みたいになりたいか?」
「……お、お前は……」
ススッと近付いて降伏を促す男は、かつてはヒュブリス軍にいた兵士である。
彼の背後にも、元ヒュブリス軍の兵士が数人、なにか悟ったような顔で佇んでいた。




