第53話:第三の異能
ニーカの次に異能に目覚めたのは、【太陽の光】という意味の名を与えられたアリョーナ。
アリョーナは一番最後に孵化した子で、乙女の姿に変身する【覚醒】も一番最後だった。
戦乙女たちの異能の目覚めに、生まれた順や覚醒した順はあまり関係ないらしい。
「太陽の光って、草や木々に育つ力を与えますよね? 私はみんなの力を増やしてあげられたらって思ったら、多くの人をサポートする異能に目覚めたみたいです」
そう言って微笑むアリョーナの初陣は、ヴォルグ軍の兵士たちの遠征。
第一皇子と第二皇子の兵力は拮抗しており、互いに一進一退を繰り返している。
【発現】したアリョーナの異能を見たヴォルグは、彼女に兵士たちのサポートを命じた。
出征前に練習をしたので、味方の兵士たちもアリョーナの異能を知っている。
一方、ヒュブリス軍は、最新型の重火器を揃えていた。
戦地が障害物の無い平原であり、飛び道具の性能勝負と考えてのことらしい。
「蹴散らせ! 焼き尽くせ! こちらへ1歩も踏み込ませるな!」
兵士長が砲兵たちを鼓舞する。
ヒュブリス軍の砲兵たちは、高初速で弾道が低伸性に優れるカノン砲を操作して、ヴォルグ軍の殲滅にかかった。
しかし、砲撃を受けた筈のヴォルグ軍は、全く無傷で平然としながら進軍を続ける。
「барьер(防壁)」
兵士たちの後方で、アリョーナは異能を起動する。
味方を覆う不可視の防壁は、ヒュブリス軍からは全く見えない。
「どういうことだ?!」
「はずしたか?!」
「馬鹿いえ、目視できる距離で奴等のド真ん中に撃ったぞ?」
カノン砲を発射した砲兵たちも兵士長も、ヴォルグ軍が何故無傷なのか分からなかった。
野戦向きに砲と砲架が軽量化されているとはいえ、カノン砲の直撃で無傷はありえない。
「Усиление силы атаки(攻撃力強化)」
アリョーナは防壁を維持しながら、次の異能を発動する。
今回出兵したヴォルグ軍戦車中隊12両の砲撃威力が、大幅に引き上げられた。
「撃て!」
ヴォルグ軍の兵士長が命じた直後、全ての戦車から一斉に砲弾が放たれる。
それは1発がカノン砲以上の高火力を与えられた砲撃だった。
「うわぁぁぁ!」
そんなものが12発も撃ち込まれ、ヒュブリス軍は一気に壊滅状態となる。
カノン砲すら大破してしまい、砲兵たちの悲鳴が上がった。
「よし、生存者を拘束しろ!」
ヴォルグ軍兵士長が命じる。
ヒュブリス軍の兵士たちのうち、即死した遺体を除く重軽傷者が拘束された。
「Лечение(治療)」
アリョーナは拘束されたヒュブリス軍兵士のうち、重傷を負ってグッタリしている者たちに異能を発動させる。
出血が止まり、傷口が塞がる様子を、意識のある負傷者たちが驚愕しながら見ていた。
「ど……どうなってるんだ……」
「あの大怪我が、一瞬で治っちまったぞ……」
戦乙女の存在を知らないヒュブリス軍の兵士たちは、奇跡を見るような気持ちでアリョーナを見つめる。
アリョーナは聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべ、敵対していた兵士たちを見つめた。
「ヴォルグ様の軍に入れば傷つくことはほとんど無く、万が一負傷しても生きてさえいれば彼女が治してくれる。お前たちは同じシュタルク国民、悪いようにはしないから投降しろ」
兵士長が穏やかな声で説得にかかる。
奇跡のような異能を見た兵士たちは完全に敵意を失くし、後にヴォルグ軍に加わることとなった。




