第46話:いいえ私は女子高生
「私は、傭兵ではないですよ」
愛歌は苦笑しながら、左の手首に着けている腕時計に似た物に触れた。
そこから現れるホログラフのようなものを、アナスタシアに見せる。
宗谷学園学生証
所属 高等部普通科1年A組
氏名 西野愛歌
「……え?」
ポカンとするアナスタシア。
セリオスとロウは、その反応に共感しつつも苦笑する。
壁際で待機する騎士たちは、分かる分かると思いつつ互いに顔を見合わせた。
「私は日本生まれの日本育ち、ごく普通の学生です」
「……学生……なんですか?」
「アイカは学業の傍ら、私を護ってくれている女子高生ですよ」
「……女子……高生……?」
学生であることを告げる愛歌に、困惑するアナスタシア。
セリオスが付け加えた情報に、アナスタシアは呆然としている。
「日本の学生は、みんな強いのですか?」
「いえ、個人差があると思いますよ」
更なる勘違いが生まれそうになるのを、ロウが苦笑しつつ訂正した。
◇◆◇◆◇
一方、間諜からの報告を受けたヒュブリスは、情報を共有すべく母アンゼリカの居室を訪れた。
人払いをして母子水入らずでティータイムを楽しむと見せかけて、話す内容は全く穏やかではない。
「母上、失踪した侍女アナスタシアが、セリオスと結託したようです」
「まさかもう国外逃亡していたとは……帝位継承権を放棄した子と何をするつもりなのかしら?」
香り高い紅茶のカップを口に運ぶ合間、ヒュブリスが告げる。
セリオスとアナスタシアはたまたま偶然合流しただけなのだが、ヒュブリスとアンゼリカは2人が意図的に会って何かを企んでいると誤解していた。
「セリオスは継承権を失っても民衆の支持率が高いですから、何か仕掛けてくるつもりかもしれません」
「ヒュブリス、私は貴方が最も皇帝にふさわしいと思っているわ」
兄弟で争いたくなくて帝位継承権を放棄したセリオスの想いは、ヒュブリスの心に全く届いていない。
セリオスを警戒し続けるヒュブリスに、アンゼリカが微笑んで言う。
アンゼリカは、亡き夫そっくりの長男推しである。
実の息子ではあるが、平民たちに優しすぎるセリオスはあまり好きではなかった。
「セリオス自身に継承権は無くても、アナスタシアの子を皇帝に推す可能性は考えられるわね」
「幼い皇帝を陰で操る宰相にでもなるつもりでしょうか?」
「そうね、過去にそうした企みをする者は何人もいたようだから」
「では1日でも早く不穏分子たちを始末した方がよいですね」
セリオスが全く考えてもいないことを、冷酷な母と兄は勝手に警戒している。
暗殺計画は、アナスタシアと胎内の子をターゲットに加えつつ続くのだった。




