第45話:血縁よりも親族
「アナスタシア様?」
「何故ここに?!」
民宿西野。
玄関前に停車した車の中からフロントまで愛歌に抱えられ運ばれてきた女性。
その場にいた騎士たちの驚きの声を聞き、やっぱりねと愛歌は思う。
「側妃だった方が暗殺されかけるなんて、何があったのですか?」
そのままお姫様抱っこでアナスタシアが談話室に移動したところで、合流したセリオスが問う。
貸し切り中のため無関係な者に聞かれる心配が無いことを説明すると、ようやくアナスタシアは事情を話し始めた。
「実は、皇帝陛下の子がこの中に宿っているのです」
それを聞いた途端、その場にいた帝国関係者全員がアナスタシア逃亡の理由を察する。
帝位よりもお菓子を欲した幼い皇子シェースチが真っ先に殺されるような状況。
側妃の胎内に新たな王族が宿っていると知られれば、間違いなく母親ごと殺そうとするだろう。
「私はこの子に帝位を継いでほしいなんて思っていません。健やかに育ってほしいだけなのです」
そう告げて俯いたアナスタシアの視界がぼやけ、膝の上にポツリと雫が落ちる。
涙を拭きたいところだが、彼女は急いで出てきたのでハンカチを持っていない。
察した騎士の1人がそっと離れてフロントへ行き、フェイスタオルを貰って戻るとアナスタシアに手渡した。
タオルを受け取ったアナスタシアは涙を拭き、騎士に「ありがとう」と微笑んだ後、話を続ける。
「それで私は、アンゼリカ様に妊娠を悟られてすぐ、帝国から脱出したのです」
「荷物が少なかったのは、そのせいだったんですね」
相槌を打つように愛歌が言う。
アナスタシアは観光客にしては荷物が少な過ぎた。
現地調達で済ませる旅行者でも、さすがにベルトポーチ1つで旅行はないだろう。
「どこかに住み込みで働くつもりで、それからいろいろな物を揃えればいいと思ったんです。でも……」
働くどころか、危うく死ぬところだった。
再び恐怖が心の中に広がり始め、アナスタシアは言葉を続けられなくなる。
ソファで隣に座っている愛歌が、慰めるようにそっと背中を撫でた。
「私を偵察していた間諜に見られてしまいましたね。帝位争いが終わるまで、私たちと行動を共にした方が安全だと思います」
「はい」
落ち着いた声で提案するセリオスに、アナスタシアは同意した。
亡き息子を可愛がり、その死に号泣したセリオスを、アナスタシアは信頼している。
それに……と、彼女は隣に座っている愛歌の顔を見上げた。
目が合った愛歌は何かなと思いキョトンとする。
「あなたはセリオス様の護衛だったのですね。城では見かけませんでしたが、傭兵をされているのでしょうか? 私も一緒に護って頂けますか?」
前もどっかで聞いたその言葉に愛歌はズッコケそうになり、前に似たようなことを言った経験者セリオスは苦笑した。




