第43話:団体貸し切り中
「おはようございます。SNSでここの宿がオススメと書いてあったので泊りに来ました」
「あら~そうですか。今月は団体のお客さんが貸し切り利用されてますので、個人の方には来月以降の御利用をお願いしているんですよ」
「えっ? 団体貸し切り?!」
アナスタシアがSNSで見て泊ろうとした宿。
それは、現在セリオスたちが1ヶ月貸し切り利用中の民宿西野であった。
「はい。せっかく来て下さったところ申し訳ないのですが、近くの空いている宿を御利用頂けますか?」
「そうですか……分かりました」
丁寧にお断りする女将風花に、予約無しで来ているアナスタシアは納得するしかない。
風花の隣でフロント業務を手伝う愛歌は、受付カウンターのパソコンで近隣の民宿の空き状況を調べている。
「ここから徒歩5分の【民宿宗谷】が空いています。御案内してもよろしいですか?」
「お願いするわ」
「こちらが民宿宗谷の館内マップです。緑の文字で点滅している番号の部屋が選べますので、そちらのモニターをタップして選択お願いします」
アナスタシアの了承を得て、愛歌は民宿宗谷の予約ページにアクセスする。
館内マップで空き部屋の位置が分かるので、観光案内用モニターに映し出してどの部屋がいいか選んでもらうことにした。
「じゃあ……これ」
「当日予約完了しました。宿泊先まで私が道案内をしますね」
「ありがとう。助かるわ」
アナスタシアが部屋を選ぶと予約は完了し、愛歌は民宿宗谷までの同行を申し出た。
一般的な観光客ならスーツケースや大きなボストンバッグなどを持っているので、宿のスタッフはこういうときは荷物持ちを引き受ける。
けれどアナスタシアは、革製のベルトポーチを着けているだけだった。
「もしかして、お荷物の送付先をここに設定されていますか?」
「いいえ。荷物は送っていないわ」
旅行客の中には宿泊予定先に荷物を送る者もいる。
アナスタシアは移動を急いでいたので、そんな余裕は無かった。
(現地調達で済ませるタイプかな?)
そう思った愛歌は、アナスタシアの荷物の少なさを不自然には感じない。
金銭的に余裕があり身軽に来たい旅行客なら、現地で必要な物を買って済ませることもある。
「団体のお客さんって、学生の夏休み合宿か何かなんですか?」
「そんな感じです」
オホーツクの海が見える丘の上を歩きながら、アナスタシアが問う。
愛歌は微笑みつつ曖昧に答えるが、民宿スタッフが宿泊客のプライベートを他人に言うことはないので、アナスタシアは特に気にしなかった。
学生のクラブ活動で民宿が長期貸し切りになることは珍しくはない。
ちょうど夏休み期間でもあるので、アナスタシアはそう予測していた。
セリオスたちは皇族や貴族に「後継者争いが終わるまで日本に避難する」としか伝えていない。
アナスタシアはセリオスが日本のどこにいるのか知らなかった。




