第39話:孵化
シュタルク帝国南部クラスノダル地方、ヴォルグの居城。
地下は地上部よりも面積があり、大きなシェルターとしても役立つ仕様だ。
そこでは失われた古代兵器【戦乙女】の研究が行われている。
孵化装置に温められた最後の卵から、灰色の綿毛に覆われた雛が生まれてきた。
「幼き者よ、私に仕えてくれるか?」
『はい、御主人様』
ヴォルグは孵化に立ち会い、殻を割って出てきた雛と目を合わせて問う。
雛は迷わずヴォルグを主と認めた。
差し伸べられた両手にすり寄るように乗り、雛はヴォルグに抱き上げられる。
「お前の名はアリョーナにしよう。帝国語で【太陽の光】という意味だよ」
『わたしの名前はアリョーナ。覚えました』
ヴォルグに名付けられた雛アリョーナは、まだ音声会話はできないのでテレパシーを使う。
アリョーナの澄んだ紫色の瞳が、真っすぐにヴォルグを見上げた。
ヴォルグが優しく微笑みながら頭を撫でてやると、アリョーナは気持ちよさそうに目を細める。
「よしいいぞ。ソーニャ出ておいで」
「はい」
ヴォルグが呼ぶと、物陰からソーニャが出てくる。
いつもはヴォルグの傍にいるソーニャも、孵化の瞬間だけは間違って刷り込まれないように離れていた。
「これで全員の刷り込みが終わりましたね」
「ああ。1000年前に不具合があったというのが嘘のようにアッサリ刷り込まれたな」
生まれたばかりの雛を抱いて奥の部屋へ歩いていくヴォルグに、ソーニャが続く。
2人と1羽が奥の部屋に入ると、黄金の髪に紫水晶に似た瞳をもつ少女たちがヴォルグに駆け寄った。
「ヴォルグ様、わたしたち覚醒できました」
「おお、早いね」
白鳥の雛の姿で生まれてくる戦乙女たちは、孵化後1ヶ月ほど経つと成鳥になり、人化する能力を得る。
しかしヴォルグを慕う雛たちは覚醒タイミングが早く、大人の白鳥になる前に人化能力に目覚めた。
「ソーニャ姉さまのように、わたしたちも早くヴォルグ様のお役に立ちたいのです」
「ヴォルグ様に褒めてもらいたいって強く思ったら、変身できました」
「そうか。素晴らしいぞ、お前たち」
頬を赤らめて微笑む少女たちは、いずれも陶磁器のように滑らかな白い肌で整った顔立ちをしている。
ヴォルグに褒められて嬉しそうに微笑む顔は、まだあどけなさが残っていて可愛らしい。
「飛ぶより先に覚醒するなんて、驚いたな」
「飛行訓練は羽が生えそろったら始めますね」
少女たちに囲まれて笑みを見せるヴォルグ。
ソーニャも妹たちの成長の速さに満足そうな微笑みを浮かべた。




