第38話:花火
夏祭りのシメといえば打ち上げ花火。
愛歌たちは盆踊りタイムが後半に入ったところで踊りの輪から抜け出した。
「船はあっちにいるぞ」
「「OK」」
「船がどうかしたのかい?」
先に抜け出して花火の打ち上げ位置を確認に行った春樹の報告。
声をそろえて応える愛歌と美冬。
今回初めてのセリオスは何のことか分からずキョトンとしている。
「Пойдем посмотрим фейерверк(花火を見に行こう)」
そんなセリオスの手を掴み、愛歌が帝国語で言った。
日本語で言わない理由は、周囲にいる日本人観光客には内緒にしたいから。
帝国語で言えば騎士団には伝わるので、愛歌は隊長のアレクセイにウインクしてみせた。
「盆踊りが終わってからだと良い場所とれないんだ」
「そうそう、みんな一斉に動き出すから歩きづらいし」
人がまばらな夜道を歩きながら、春樹と美冬が説明してくれた。
村人は分かっているから、既に移動開始している。
祭り会場にいる人の9割は、他の地域から来ている観光客だ。
村の人口の10倍近い人数が一斉に移動したら大混雑になるだろう。
地元民はそれを知っているので、盆踊りタイムの途中で抜け出す。
騎士たちはまとめて抜け出すと目立つので、2人ずつ踊りの輪から抜けて前を歩く者に続いた。
「お、空いてる空いてる」
「良い席とれたね」
狙い通り、花火用に設置された観客席はガラ空きだ。
金属の棒と木製の長い板で組まれたベンチに、春樹・美冬・セリオス・愛歌の順に横並びで座る。
前方のオホーツク海では、花火師たちが船の上で忙しそうに準備をしていた。
時刻はそろそろ21時になるところ。
海の上に広がるのは、夜空に煌めく無数の星々。
天の川もくっきり見えて、こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブで構成される夏の大三角形もすぐに見つかった。
(ソーニャ、今度はいつ来るのかなぁ)
はくちょう座を見た愛歌は、自分の祖先と同じ人工生命体だというソーニャを連想する。
白い羽から聞いた祖先の話や、ソーニャから聞いた話は、西野家だけにとどめていた。
うっかり他人に話したら異端視されそうだから、秘密にしておこうと家族会議で決定している。
とはいえ愛歌も家族も、人工生命体がどういう能力を持っているかは知らない。
(今度来たら、もっと詳しく聞いてみよう)
愛歌がそう思ったとき、ドーン! という轟音と共に船からオレンジがかった光の玉が上がる。
光の玉は尾を引きながら上昇を続け、夜空に大輪の光の花を咲かせた。
祭り会場の方から、ワーッ! という歓声が上がる。
きっとそろそろ花火会場へ行こうとしていた観光客の声だろう。
ゾロゾロ連なって来る人々の気配を後方に感じつつ、愛歌たちは悠々と座って花火を眺めていた。




