第35話:ソーニャの報告
愛しの主ヴォルグにハーブティを淹れるために帰ったソーニャは、すぐに夜のティータイムの準備にかかった。
ティーカップとティーポットはあらかじめ温めておく。
ティーポットにドライハーブを入れる。
沸騰したお湯をティーポットに静かに注ぐ。
ティーポットの蓋をして、3~5分蒸らす。
ティーポットを軽く水平に回して、お茶の濃さを均一にする。
抽出が済むと、茶漉しで漉しながらティーカップに注いだ。
「ヴォルグ様、今夜はロマーシカの花茶をどうぞ」
「うん、ありがとう」
ソーニャは湯気の立つカップと蜂蜜を入れた小さな壺をテーブルに置く。
リンゴに似た香りがする花のお茶は、蜂蜜とよく合う。
ヴォルグはカップを持ち、ゆったりした動作で口に運ぶ。
「セリオス殿下を護っているあの子、戦乙女の子孫でしたわ」
「ということは、私よりも先に卵を持ち出した者がいたのか?」
「いいえ。あの子の祖先は、エルガー皇帝から逃げた者です」
「エルガー皇帝に献上された卵は、みんな孵化後すぐに斬り殺されたのではないのか?」
「最初に献上された卵から孵化した子が、成鳥になっても覚醒しなかったので処分場送りになった後、脱走していたのです」
ソーニャは自分にも同じお茶を淹れ、ヴォルグの隣で飲みながら報告を続ける。
処分されたと思っていた同胞が生き延びていたことは、身内の無事のように嬉しかった。
「つまり、刷り込み失敗で覚醒もしなかった者が、本来の主とは違う相手と結ばれたということか?」
「はい。羽に残された思念によれば、逃げた先で偶然出会った人間が優しかったので心を開いたようです」
「なるほどね」
お茶うけの蜂蜜をティースプーンで掬いつつ、ヴォルグは納得したように言う。
ソーニャに心があるように、逃げた戦乙女にも心があったろう。
故に、兄と同じく愛情の欠片も無かったと言われるエルガー皇帝では、彼女らの心を掴めなかったのだ。
「刷り込み以外でも慕って覚醒まで進むのなら、セリオスを護るあの子もいずれ覚醒するかもしれないな」
「私もそんな予感がしますわ」
「しかし既に人化しているとなると、何をもって覚醒とするのだろう?」
「彼女の一族はみんな人間の姿で生まれているそうですから、覚醒しても姿は変わらないのかもしれません」
「なら、私がソーニャを娶って子を成したとしても、人の子として生まれてくるということだな」
「はい、おそらく」
西野家の情報は、ソーニャを妻にと考えていたヴォルグには福音である。
ほどなくして、帝国の第二皇子ヴォルグはソーニャを婚約者として発表した。
気品のある美しい娘はどこの令嬢かと噂されたが、家柄は誰にも分からなかった。




