第32話:血縁者の予想
ソーニャが飛び去った後、愛歌はしばらく星空を眺めて考え事をしていた。
今まで、愛歌は自らを普通の人間だと思っていた。
けれど、人間とは違う遺伝子が混じっているという。
しかも、父や兄たちよりも、自分は異種の特性を濃く受け継いでいるらしい。
「普通だと思ってたんだけどなぁ……」
「何が普通なんだい?」
「え?! あ、いや何でもない」
呟いた直後、背後から声がする。
愛歌が驚いて振り返った先には、戸口で佇むセリオスがいた。
少し慌てつつ定型文的なごまかし言葉を言う愛歌に、セリオスはキョトンとした。
「アイカが戻ってこないから、解散してハルキもミフユも家に帰ったよ」
「そっか。待たせてごめんね」
「大丈夫。3人でカードゲームをして退屈はしなかったから」
「よかった」
話しながら、セリオスは庭園に出る宿泊客用のサンダルを履いて愛歌に歩み寄って来る。
彼が建物から数歩出たところで、愛歌がスッと動いて飛んできた矢を掴み、すぐに投げ返した。
弓矢でも鉄砲でも、彼女は飛んでくる物を目視できて止めることができる。
性懲りもなく飛び道具でセリオスを狙った暗殺者は、今回もあっけなく撃退された。
直後、騎士たちが愛歌が矢を投げ返した方角へダッシュしていく。
それはすっかり定番となった、愛歌と騎士たちとの連携みたいなもの。
「もう無意識に身体が動くようになっちゃった」
「さすがだね。いつもありがとう」
ドヤ顔で言う愛歌に、セリオスが微笑んだ。
遠くの方で、ロープぐるぐる巻きにされた男が騎士たちに担がれて、連れ去られるのが見える。
きっとまた暗殺者をチャーター機に積み込んで、帝国領土の森林地帯に投げ落とすのだろう。
パラシュートを付けてやるのはせめてもの情けというやつだ。
「ねぇセリオス」
「なんだい?」
「戦乙女って知ってる?」
愛歌は少し考えて、セリオスに問いかけた。
帝国の歴史に残るものだから、勿論知っているだろうとは思いつつ。
「その言葉が示すものは主に2つだね。1つは北欧神話に登場する【戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性】、もう1つは帝国に1000年前まで存在していた【皇族護衛用の人工生命体】。アイカが問いたいのは多分後者かな?」
「うん」
問い返すセリオスに愛歌は頷く。
セリオスは兄のヴォルグがその人工生命体を復活させたことまでは知らないのかもしれない。
「戦乙女って、生まれて最初に見たものを主だと思って護ってくれるの?」
「そうだったらしいね。鳥の雛がもつ【刷り込み】を性質として組み込んだそうだ」
「でも、エルガー皇帝のために作られた戦乙女は、そうならなかったんだよね?」
「【いずれも怯えて逃げようとした】と、帝国の歴史書には書いてあるよ」
「どうしてだと思う?」
「原因は今も不明とされているけれど、アイカが聞きたいのは私の推測かな?」
「うん」
戦乙女について愛歌が次々に問いかけるのに対し、セリオスは普段の穏やかな表情で答えている。
帝国の歴史は授業で習うので、夏休みの自由課題にするのかなくらいに思っているようだ。
「そうだなぁ、実際はどうかは分からないけれど……」
と前置いて、セリオスは1000年前の皇帝を思い浮かべてみる。
彼は子孫ではないけれど、血縁ではある。
長兄のヒュブリスがエルガー皇帝にそっくりと噂されることから、どんな人物か心の中で描き易くはあった。
「……多分、彼が【誰も信じていない】からじゃないかなぁ?」
それは、実の兄にも言えること。
血を分けた兄弟を信用せず殺そうとするヒュブリスと、古代の皇帝は確かに似ている。
セリオスには、エルガー皇帝が兄と同質の孤独を抱えていたように思えた。




