第31話:先祖返り
話を聞き終えた愛歌は、居間を出て友人たちがいる自室へと歩いていく。
祖先に関するトンデモ話に、かなり困惑気味である。
おまけに、ソーニャが更にトンデモ情報を追加してきたのだ。
白鳥の姿に戻ったソーニャは、廊下を歩きながら愛歌にテレパシーで話しかけてくる。
『愛歌の紫の瞳は、戦乙女の遺伝子を濃く受け継いだ証だと思うわ』
『戦乙女って、戦場で死んだ者を天国へ送り出す人だっけ?』
『それは別物。シュタルク帝国での戦乙女とは、女性の姿をした護衛兼戦闘兵器のことよ』
『つまり、戦死者の弔いじゃなくて戦闘を担当?』
『そう。正しくは、仕える皇族を護る為に戦うのが主な役割なの』
ソーニャは愛歌に、自身や愛歌の祖先が元々どういう目的で作られたかを教えてくれた。
血縁者に殺されることが珍しくない帝国の皇族には、絶対に裏切ることのない護衛が必要である。
そこで開発されたのが戦乙女と呼ばれる人工生命体で、彼女らには鳥の雛のように【孵化後最初に見たものを慕う】習性が組み込まれた。
『だから、貴方の祖先や同じ仕様で作られた個体がエルガー皇帝を恐れたというのは大問題なの。エルガー皇帝は戦乙女を全面的に禁じて廃止した人だけど、刷り込みに失敗ばかりじゃ当然の行動だと思うわ』
『モテなさ過ぎて腹いせに廃止したのかと思った』
『その辺りは本人にしか分からないけどね』
素直に感想を述べる愛歌に、ソーニャが苦笑する。
エルガー皇帝が戦乙女の廃止を決めるまでに、何人の同胞が斬り殺されたのだろうか。
『歴史上に残されている理由は【絶対の忠誠が成立しないなら、裏切って敵に回れば危険な存在】だからとされているわ』
『そんなに危険なの?』
『アイカが暗殺者たちを圧倒しているのが何よりの証拠ね』
『あれ、あの人たちが弱いんじゃないの?』
『皇族に雇われるくらいだもの、人を殺す技術は高かった筈よ』
話しながら庭園に出られる扉の前まで来ると、ソーニャは器用に嘴を使って引き戸を開ける。
どうやら、そろそろ帰るつもりのようだ。
『帰るの?』
『ええ。ヴォルグ様にお休み前のハーブティをお淹れする時間だから』
問う愛歌に、ソーニャは微笑むように目を細めて答えた。
庭園の上には、プラネタリウムのような無数の星々が輝く夜空が広がっている。
白鳥は大きな翼を広げながら助走をつけて、夜空へと舞い上がった。
満天の星を背に、大きな白い鳥が優雅に滑空を始める。
『アイカ、貴方の力でセリオス様をお護りしてね。あの方は帝にならずとも、帝国の民に幸福をもたらして下さる御方だから』
最後にそう告げると、白鳥は北を目指して飛び去っていった。




