第26話:温泉と露天風呂
帝国では浴槽に湯を張り、その中で身体を洗う。
今まで宿泊していたホテルでも同じだった。
温泉がある民宿西野で、セリオスたちは初めて日本式の入浴を経験した。
「日本式は先にここで身体を洗ってから浴槽に入ります」
「外にあるあれもお風呂かい?」
「あれは露天風呂といって、風呂に入りながら景色を楽しむものですよ」
「夏はいいけど冬は寒そうだね」
「雪見風呂を楽しむ方も割といますよ」
「入っている間はいいけど、雪の日に裸で外に出るのは気合が要りそうだ」
海外からの宿泊客に慣れた西野家の双子が、大浴場にセリオスたちを案内して説明している。
セリオスたちは来日前に日本の文化は学んでいたものの、初めて見る露天風呂に興味津々だ。
民宿西野の風呂は、男女それぞれ内風呂が2つ、露天風呂とサウナと水風呂が1つずつある。
お湯は源泉100%かけ流し。
加水は行わず、貯水槽にお湯を溜めて冷却することでお湯の温度を下げるという方法で調節している。
2つの内風呂は片方が42℃、もう片方は38℃、好みで浸かることができるのだ。
この他に貸し切り利用の【家族風呂】があり、カップルや夫婦がよく利用していた。
「これならセリオス様を護衛しやすいですな」
「こうして我々が壁になっていれば、狙撃もできないでしょう」
「うん、風景が見えないけどね」
露天風呂に入ったセリオスは、ガタイのいい男たちに囲まれて苦笑する。
マッチョな騎士たちの肉壁のせいで、せっかくの庭園が全く見えなかった。
一方、女湯では愛歌と美冬が2人だけで露天風呂に浸かっている。
男性のみの団体貸し切りだから、女湯はガラ空きだ。
「うふふ~っ、貸し切り貸し切り♪」
「女性客がいないから、ゆったり入れるね」
ゴキゲンな美冬に、愛歌がクスッと笑って言う。
愛歌は女性客が泊っている日は自宅の個人風呂に入る。
初対面の観光客は、愛歌が女湯の脱衣所に来た途端に悲鳴を上げたりギョッとしたりする。
無駄に騒がれたくないから、愛歌は知らない人がいるときは女湯に入らないようにしていた。
「温泉サイコーっ!」
ニコニコ顔の美冬が万歳ポーズをした背後で、バシャッと音を立てて飛沫が散る。
驚いて振り返る美冬と愛歌は、そこにいたモノを見て目が点になった。
水面に浮かぶ鳥。
お風呂のお供のアヒルちゃんではない。
「白鳥……?」
美冬が呆然と呟く。
大きな真っ白ボディに紫の瞳、学園に乱入したのと同一個体と思われる白鳥。
白鳥は優雅に水面に浮かんでいる。
しかし、ここは池でも湖でもない。
夏仕様で湯温38℃に保たれた露天風呂だ。
「なんで温泉に?」
露天風呂に浮かんだまま水浴びでもするように首や翼を動かす白鳥を見て、愛歌がツッコミを入れた。




