第20話:学園に入り込んだ白鳥
北海道には白鳥の越冬地が複数あり、飛来シーズンにその姿を見かけることは珍しくない。
しかし、水辺でも田畑でもない場所に白鳥がいることは滅多になかった。
それも渡りのシーズンではない夏だとしたら。
気温が20℃を超えることがほとんどない道北の夏、宗谷学園の敷地内に1羽の白鳥が舞い降りた。
「あ! 見て! 校庭に白鳥が降りてきたよ」
「綺麗~」
「給食のパンあげてみる?」
ちょうど昼休みだったため、生徒たちが騒ぎ出す。
白鳥は怯える様子は無く、ヨチヨチ歩いて校舎の中に入ってきた。
「えっ、校舎に入っちゃった」
「見に行こう!」
「パン食べるかな?」
動物好きの女子生徒が3人、パンを手に白鳥がいる方へ向かう。
白鳥はまるで目的があるかのように、ヨチヨチと廊下を歩いている。
「いたいた」
「お腹空いてるの?」
「ほら、これ食べていいよ」
女生徒たちは白鳥に歩み寄り、パンを差し出す。
白鳥は立ち止まり、差し出されたパンを数秒じっと見つめた後、プイッと顔をそむけてまた歩き出した。
「あら~塩対応だわ」
「お腹空いてないのかな?」
「普段もっといいもの食べてるとか?」
女生徒たちは追い掛け回すようなことはせず、離れていく白鳥を見送る。
白鳥は引き寄せられるように1つの教室へと向かい、入り口の引き戸を嘴で器用に開けた。
「え?!」
「白鳥?!」
ガラッと扉が開く音に、教室内にいた人々が何気なく振り向き驚く。
その中には、パンを頬張る愛歌たちもいた。
白鳥は人々の視線を浴びても全く怯える様子は無く、真っすぐに愛歌に歩み寄ってくる。
「な……何か用……かな?」
白鳥は愛歌の足元まで歩いて来て立ち止まり、じ~っと見上げてくる。
愛歌は困惑気味に問いかけた。
「愛歌、その子知り合い?」
「いや、白鳥に知り合いはいないよ」
美冬が訊いてきた。
愛歌は白鳥を遠目に見たことはあっても、教室まで訪ねて来られるほど交流した覚えはない。
「この白鳥の目の色、アイカと同じだね」
愛歌の隣の席に座っていたセリオスが、白鳥の顔を見てそんなことを言う。
白鳥の目の色は、愛歌と同じ紫色だった。
「あ、ほんとだ。珍しいね、紫色の目をした白鳥なんて初めて見たわ」
愛歌と向かい合う席から、美冬も白鳥の目を見つめる。
白鳥は愛歌の顔を、その目を、じ~っと見つめていた。
『あなたは、誰に作られたの?』
「えっ?!」
突然、愛歌の頭の中に【声】が流れ込む。
愛歌は驚きつつも、何故かその【声】を送ってきているのは白鳥だと察した。
「どうしたの?」
「あ、いやなんでもないよ」
『この声は、あなたにだけ送っているの。他の人には聞こえないわ』
問いかける美冬やキョトンとするセリオスには、【声】は聞こえなかったらしい。
とりあえず気のせいということにした愛歌の頭に、再び【声】が流れ込む。
『答えて。頭の中で考えるだけでいい。あなたはどこで作られたの?』
(作られたっていうか、生まれたのは北海道だよ)
『北海道の研究所で孵化したの?』
(孵化? いや普通に病院で母さんのお腹から生まれたけど)
謎の声相手に心の中で会話をするが、どうも愛歌の誕生に関する認識がズレている。
白鳥と見つめ合う愛歌を、クラスメイトたちは不思議そうに眺めていた。




