第17話:騎士隊長アレクセイ
セリオスの護衛騎士たちは全員が平民である。
隊長アレクセイは剣術師範の息子ではあるが、貴族ではない。
父は過去の戦で雇われた平民の兵士。
その剣術や武術を高く評価され、退役後に剣術道場を開いている。
アレクセイは、セリオスに出会うまでは父の道場を継ぐつもりだった。
「ついてこいアレクセイ、お前の出世のチャンスかもしれないぞ」
何やら上機嫌の父に連れられて、行った先は王都の教会付属孤児院。
そこでアレクセイは、初めて王族を間近で見た。
「セリオス殿下に御挨拶申し上げます。こちらが息子のアレクセイです」
「アレクセイ、君も剣術を習っているのかい?」
恭しく一礼する父に倣い、アレクセイもペコリと頭を下げる。
近くで王族を見られたことだけでも驚きなのに、セリオスは気さくに声をかけてくれた。
「はい、毎日父にしごかれております」
「たまにサボッて街で買い食いなどしておりますが、それなりに鍛錬は積んでいる子ですよ」
「そうか、街でおすすめの食べ物は何かな?」
「噴水広場近くに出店している屋台のピロシキが美味しいです」
剣術の話だった筈が、何故か食べ物の話になったり。
おまけにセリオスはオススメを聞いた翌日、その店でピロシキを数種類買って孤児院の子供たちに分け与えていた。
「みんな、アレクセイのオススメを買ってきたよ。美味しかったらアレクセイにお礼を言ってね」
「「「はーい!」」」
買ってきたのはセリオスなのに、そんなことを言う。
子供たちも素直に従って、パクリと食べて目を輝かせるとアレクセイにお礼を言いに来た。
セリオスはニコニコしながらそれを見ている。
変わった皇子様だなとアレクセイは思った。
アレクセイの父はセリオスの私費で雇われ、孤児院の子供たちに剣術や武道を教え始めた。
子供たちは強制されたわけではなく、自ら望んで稽古を受けているという。
「俺たち、セリオス様の騎士になるんだ!」
「えっ? 騎士って貴族しかなれないんじゃないの?」
孤児院の子供たちから騎士になるという目標を聞き、アレクセイはそれは無理だろうと苦笑していた。
しかし子供たちの年長組が16歳の成人となった頃、セリオスは本当に彼等を騎士として迎え入れたのだ。
「お、おれ……じゃなかった、私もセリオス様の騎士にして下さい!」
「いいよ。アレクセイはみんなの中で剣の腕が一番だから、隊長になってくれる?」
「えっ?! い、いいんですか?!」
慌てて志願したアレクセイに、セリオスはいともあっさりと承諾した。
それどころか、隊長にするという。
そんな簡単に決めていいのだろうかと心配になるも、文句を言う者はいなかった。
他の皇子や王族に仕える貴族の騎士たちは、小馬鹿にするような態度ではあったが。
その態度も、王宮内で催された剣術大会の結果によって大きく変わることになる。
「みんな、気楽にいこう。稽古の成果を調べる程度でいいよ」
大会前にセリオスは微笑んでそう言ったのだが。
勝つとは思わずとにかく全力を出しにいったアレクセイたちは、貴族たちを退けて上位を独占してしまった。
想定外の結果に王宮の人々が呆然とする中、セリオスと騎士たちは笑顔で勝利を祝い合う。
そのことが原因で第一皇子ヒュブリスが実弟であるセリオスを敵視し始めて、現在に至る。
「私は皇帝になるつもりはないよ」
セリオスはそう言って、成人を迎える前に王位継承権を放棄した。
アレクセイはほんの少し残念に思ったが、無欲なセリオスらしいなとも思う。
しつこく続く暗殺未遂を煩わしく思うセリオスが日本行きを告げたとき、アレクセイも騎士たちも迷わず同行を申し出た。
新皇帝になるのは第一皇子か、第二皇子か。
どちらでもいいから早く即位してくれとアレクセイたちは思っている。
彼等の主は皇帝でも国でもない、セリオスだけだから。




