第16話:ロウの過去
セリオスの側近ロウは戦災孤児だった。
内乱が多い帝国では、街や村が巻き込まれることが少なくない。
ロウが生まれた村も、テロリストが潜んでいたことから砲火に消えた。
轟音と共に砕け散る家々。
地面に転がったまま戦火に焼かれる死者たち。
家族や友を弔う余裕も無く必死で逃げる人々。
ロウの両親は、砲撃で崩れて燃え上がる家に埋もれて逝った。
水汲みに出ていて村から離れていたロウだけが残された。
「父さん! 母さん!」
焦げ臭い異臭が漂う村に戻って叫ぶロウに、応える者はいない。
埃と涙で汚れた顔を洗う余裕も無く、ロウは生き残った人たちと共に壊滅した村を出た。
「王都へ行こう。あそこなら滅多なことでは戦火に飲まれたりしないだろう」
住処を失くした人々とロウは王都を目指して歩いていく。
途中で体力が尽きて倒れた者や、母親に抱かれたまま死んでいった赤子がいた。
土を掘る道具など誰も持ってはいなかったので、死者はそのまま放置された。
「子供を働かせることはできない。君は孤児院へ行きなさい」
王都の門前で、ロウは他の村人から離された。
兵士に連れて行かれた先は、教会付属の孤児院。
孤児院に入って間もない頃は、少し乾いたパンと具の少ない薄いスープでも御馳走だった。
貧しい村では、ほんの少し穀物の粒が入っているだけの水みたいな物が主食だったから。
ロウが孤児院に入って2~3年経った頃。
1人の少年が孤児院を訪れた。
華美ではないが、質の良い布で作られた衣服を纏う少年。
滑らかな白い肌、サラサラした金色の髪、青い瞳は澄んでいて大きく、少女と間違えそうなくらい可愛い子だった。
「セリオス殿下が、みんなに贈り物を持ってきて下さいましたよ」
院長を兼ねる神父が、その少年はこの国の皇子であると告げる。
そんな雲の上の人が孤児院へ来たと知り、ロウも子供たちも驚いて固まった。
「これ、食べてみて。気に入った菓子があればまた持ってくるよ」
子供たち1人1人に菓子を詰め合わせた袋を渡しながら、セリオスは微笑む。
それは愛想笑いなどではなく、親しみを込めた笑みであった。
セリオスの最初の訪問以降、孤児院の食事が劇的に変わる。
栄養バランスのとれた食事をしてほしいと、様々な食材が届けられた。
「セリオス殿下に食材を頂きました。好き嫌いせずに野菜も食べましょうね」
院長に言われるまでもなく、子供たちは出された食事を完食する。
ロウも夢中で料理を平らげた。
その料理が宮廷の料理人にレシピを考えさせたものと知り、孤児院のスタッフたちは驚いたという。
「本を読んでみたい子はいるかい? 文字を教えるよ」
やがてセリオスは、食べ物だけでなく本やおもちゃも差し入れ始める。
ロウは子供たちの中でも特に頭が良く、すぐに文字を覚えて本を読み始めた。
色んなことを覚えたい、知りたいとロウは思う。
セリオスがくれる本は、その願いを叶えてくれた。
後にセリオスの私費で雇われた教師が孤児院へ来るようになり、勉強好きの子供たちは更に学力を上げる。
飛び抜けて成績が良かったロウは、セリオスの側近となった。
孤児のままでは王宮勤めが厳しいだろうとのことで、神父が養父になってくれている。
(セリオス様がいなければ今の私は無い。たとえ皇帝を敵に回したとしても、私はセリオス様に味方しますよ)
子供の頃から続けている就寝前の神への祈り、ロウはそんなことを神に告げていた。




