第15話:セリオスの事情
「私は兄上たちと帝位を争うつもりは無いのに」
愛歌たちとの楽しいティータイム後、ホテルの自室に帰ったセリオスはぽつりと零す。
カメラを模した銃で狙われていたことをロウから伝えられ、ティータイムの楽しさで上昇していた気分が一気に下降してしまった。
「私は1年前に帝位継承権を放棄している。それは兄上たちも御存知の筈なのだが」
ソファの背もたれに背中を預けつつ、ロウがテーブルに置いた紅茶に口を付ける合間、ふうっと溜息が漏れる。
セリオスの好みを熟知している側近が淹れるお茶は、濃さも温度もちょうどよく美味しかった。
傍らに控えるロウが、主の気持ちに寄り添って目を伏せる。
激しい気性の者が多い帝国王家の人々の中で、セリオスは珍しく穏やかな性格をもつ。
長兄ヒュブリスが帝位を欲して下の兄弟たちを暗殺していることを、セリオスは怖いと思うよりも先に悲しいと感じた。
「皇帝になりたいのなら兄上が帝位を継げばいい。私は自分のやりたいことが別にあるから、帝位に興味は無い」
「私も騎士たちも、セリオス様が目指す未来についていきます。どうか御身の安全を一番にお考え下さいませ」
辛そうに顔をしかめるセリオスを慰めるように、ロウは穏やかな表情と声で言う。
ロウも騎士たちも、帝国のためにその職に就いたわけではない。
セリオスの支えとなるべく従う者たちであった。
「ありがとう」
ロウたちの気持ちを知るセリオスは、ふわっとした優しい笑みを向ける。
それはもう少し幼い頃、孤児院の子供たちにプレゼントを渡していたときの微笑みに似ていた。
幼い頃から孤児院の存在を知り、お菓子やおもちゃや本などを差し入れていたセリオスを、ロウは心から慕っている。
この優しい皇子が皇帝になってくれたらと思うこともあるが、本人にその気が無いのなら、進みたい道を目指してほしいというのがロウの考えだった。
「宰相には新たな皇帝が即位するまで帝国には帰らぬと告げてある。兄上たちの争いが片付くまで、日本でゆっくり待とう」
「はい」
異国での二度の暗殺未遂にメンタル的に疲れを感じつつも、セリオスは微笑む。
ロウも微笑みながら応じた。
先帝の死から帝国内では何度も暗殺未遂があり、精神的に疲れ果てた第三皇子は久しく微笑むことが無かった。
日本に来て愛歌たちと交流したことは、セリオスにとって心の癒しとなったのだなとロウは思う。
今このときがあるのは、チンピラを装う暗殺者たちを倒した愛歌あればこそ。
(アイカさん、ありがとう)
ロウの心には、愛歌への感謝が浮かんでいた。




