第14話:失われた技術
クラスノダル地方、ヴォルグの居城。
古城を改装した城の地下には、孵化装置に乗せられた卵がズラリと並んでいる。
卵といっても家庭で馴染みの鶏卵よりは大きく、ダチョウの卵よりは小さい。
直径11センチほどの卵が1つ1つ乗せられた円柱型の機械には、孵化までかかる日時を示すパネルが付いていた。
日時はそれぞれ違っており、一番長いものでは40日ほどになっている。
「健やかに育ちなさい。ヴォルグ様の剣となり、盾となるように」
地下施設を訪れたのは、ドレス姿の美女ソーニャ。
真紅の薔薇の花弁に似た裾を揺らしながら、優雅に歩いてくる。
地下室の中ほどまで進むと、彼女は卵を見回して微笑んだ。
「順調か?」
背後から問いかける声に、ソーニャは特に驚きもせずに振り返る。
長く艷やかな黄金の髪の先が、その動きに合わせて空中を舞った。
入ってきたのは、狼の毛並みを思わせる銀灰色の髪と、金色の瞳をもつ若い男。
帝国の第二皇子ヴォルグであった。
「はい。胎児は皆すくすく育っております。孵化する際に刷り込みを行えば、ヴォルグ様の忠実な下僕となるでしょう」
「楽しみにしているぞ。古代の美しい兵器たちが、天空を覆う日を」
「その際は私がヴォルグ様を空へお連れしますわ」
ソーニャは恭しく跪いて、ヴォルグの手をそっと両手で持ち、手の甲に薔薇色の唇を触れさせる。
ヴォルグは優しい笑みを浮かべると、ソーニャを抱き寄せるように立ち上がらせて、恋人にするように唇を重ねた。
その後、ヴォルグはソーニャに片手を差し伸べ、ソーニャがその手に華奢な片手を乗せると、エスコートするように寄り添って歩きながら地下室を出る。
その様子は、まるで婚約者の令嬢に接しているように見えた。
通路ですれ違う警備兵たちは、サッと壁際に寄って頭を下げ、2人が通り過ぎるまで待つ。
兵士たちはヴォルグたちが悠々と通り過ぎた後、そ~っと顔を上げて見送り、ソーニャの美貌にホゥッと溜息をついた。
ヴォルグはソーニャを伴って自室へと帰り、豪奢なソファに座るとまた微笑みを向けた。
寄り添ってソファに座るソーニャを見詰めて、ヴォルグは言う。
「下僕が増えても、一番はソーニャ、お前だ」
「嬉しゅうございます」
ヴォルグから寵愛の気持ちを伝えられ、ソーニャが幸せそうに微笑む。
ソーニャはドレスを着こなし美しい容姿をしているが、貴族の令嬢ではない。
それどころか、婚約者でもない。
しかし、ヴォルグの愛情を独り占めしている女性であり、誰よりも信頼されている者でもあった。




