第13話:第二皇子ヴォルグ
観光客を装い、カメラで吐夢宗谷の外観を撮ると見せかけてセリオスを狙撃しようとした男の失敗は、離れて様子を窺っていた偵察者を通じてヒュブリスに報告された。
偵察者は暗殺者がセリオスの護衛騎士たちに始末される一部始終を目視、その映像をヒュブリスの側近に送信した後、気付かれないようにその場を立ち去っている。
「セリオスの側にあの若者がついているな」
「狙撃に気付いていたようですね」
偵察者から送られた動画には、暗殺者がカメラを模した銃を構えると同時に、愛歌がセリオスをさりげなく背後に隠す様子が映っている。
実はこの行動によって暗殺者は一瞬戸惑い、接近する騎士たちに気付くのが遅れたのだ。
「あの容姿は日本人ではないようだが、一体どこで雇われたのだろう?」
「日本には帝国から移住した者が多くいます故、その関係者かもしれませんね」
ヒュブリスと側近が話していると、側近に別の偵察者からの通信が入る。
それは、現在冷戦状態にある第二皇子ヴォルグの動向を見張らせている者からの最新情報だった。
「ヴォルグ様の兵が、クラスノダル地方を占拠しました」
「ちっ、手近な穀倉地帯を狙ったか」
ヒュブリスは忌々しそうに舌打ちする。
第二皇子ヴォルグは、ヒュブリスにとって最も手強い敵対者である。
彼は兄を討ち、皇帝になろうと企む者だった。
◇◆◇◆◇
シュタルク帝国南部クラスノダル地方
農村や港では、ヒュブリスの兵を退けたヴォルグの兵たちが占拠を示す旗を立てて回っていた。
(兄上、セリオスの暗殺に気を取られ過ぎましたね)
南の砦、最上階の執務室で、ヴォルグは不敵な笑みを浮かべる。
第二皇子ヴォルグ・フトロイ・シュタルク。
帝国の狼とも言われるその容姿は、銀灰色の髪に金色の瞳。
皇子でありながら野性味のある風貌のヴォルグは優れた武人でもあり、帝国の騎士や兵士たちに人気があった。
ヒュブリスの弟である彼も正妃の子、味方する貴族は多い。
「この者には礼を言いたいくらいだな、兄上を手こずらせてくれたのだから」
小鉢に入れた果実の砂糖煮をお茶うけに紅茶を飲みながら、ヴォルグは満足そうに呟く。
その視線は、テーブルに置かれたタブレットに似た機械の映像に向けられている。
ヴォルグはヒュブリスが下の兄弟たちを次々に暗殺しているのを知っていた。
正妃の子はヒュブリス、ヴォルグ、セリオス。
他の兄弟は側室の子。
それぞれ、母に連なる貴族の後ろ盾がある。
ヒュブリスは勢力の弱い兄弟から順に片付けており、残るはヴォルグとセリオスだけとなっていた。
セリオス亡き後は、北部の王都や周辺に住む貴族たちを後ろ盾にもつヒュブリスと、南部に勢力を広げるヴォルグとの戦いになるだろう。
「ヴォルグ様、私はこの人が少し気になりますわ」
空になったカップに湯気の立つ紅茶を注いだ後、側仕えの女性が映像をチラリと見て口を開いた。
ローズレッドのドレスを身に纏う、豊満なバストに細いウエストの美女。
黄金の髪も美しく、アメジストを思わせる紫の瞳が印象的な女性である。
「うん? 何だソーニャ、お前と同じ色の瞳が気になるのか?」
「ええ。この色は、人間には珍しいのでしょう?」
「そうだな。少なくとも帝国では紫の瞳は滅多にいないだろうな」
二人はまるで恋人のように寄り添ってソファに座り、画面に映る愛歌を見つめた。




