第12話:帝国の第一皇子ヒュブリス
チンピラを装ってセリオスを襲い、愛歌に撃退された暗殺者たちは、独房の中で自害した。
その報せを受けたロウは、やはりな、と軽く溜息をつく。
「何も語る気は無いということですね」
それぞれの独房内で床に倒れている男たちを見回して、ロウは呟く。
予想はしていたので驚きはしなかった。
尋問したところで依頼主を教えるような連中ではない。
命令を遂行できずに捕縛されれば、自死するのが暗殺者というものだ。
「遺体は共同墓地に埋葬して下さい」
死亡確認に立ち会った医師と看守に依頼して、ロウはその場を立ち去る。
暗殺を命じたのは、帝国の皇子たちのどちらかだろうと思った。
第一皇子ヒュブリス・リョート・シュタルクは、亡き皇帝によく似ている。
銀の髪にアイスブルーの瞳、顔立ちは整っているが、表情は冷ややかで相手を威圧するオーラを纏っていた。
正妃の子だが、帝国ではそれだけでは皇太子になれない。
皇太子を決める前に皇帝が死んだ今、彼はいかに玉座を得るか考えなければならなかった。
一年のほとんどを雪と氷に覆われるシュタルク帝国。
王都ノリリスクは世界最大級のニッケル鉱床を擁しており、ノリリスク・ニッケル(ノルニッケル)の主要操業拠点として知られる。
「失敗だと? セリオスの護衛騎士はそんなに強かったのか?」
王都の中心にある王城の執務室で、ヒュブリスは眉間に皺を寄せて問う。
皇帝不在の今、第一皇子の彼がひとまず代理の地位にあった。
帝位継承の妨げとなる兄弟がいなくなれば、ヒュブリスが即位するのは容易となる。
彼にとって第三皇子は楽に潰せると思う相手であり、すぐに暗殺されると予想していた。
「それが、暗殺者を倒したのは騎士ではないようです」
「どういうことだ?」
「これを御覧ください」
報告に来た側近が、タブレットに似た物をそっと差し出す。
ヒュブリスが目を向けると、暗殺者がセリオスとロウを袋小路に追い詰めている動画が映し出された。
退路を断たれ、焦った様子でセリオスを背後に庇うロウ。
チンピラ風の男たちが果物ナイフを向けている。
「何してるの?」
声がした。
やや高く、少しハスキーな声だ。
カメラがパンするように、映像が横に流れる。
その先には、金色の髪の若者がいた。
北方民族系の美しい顔立ちに、珍しいアメジストの瞳。
目立つ容姿だが、帝国で見かけた記憶は無い。
「なんだお前は!」
「それ、ナイフだよね? 刺さったら怪我するよね?」
「……ちっ、味方がいたのか」
「違う! その人は関係ない!」
男たちと若者が会話していると、画面外にいるセリオスの声がした。
目撃者を生かしておくわけにはいかない男たちの1人が、若者に狙いを定めてナイフを振るう。
しかし、ナイフが触れるよりも速く、金髪の若者はその場から消えた。
ヒュブリスは怪訝な顔で画面を凝視する。
そこから先は画面に若者が映ることはなく、映像は暗転してしまった。
「この動画は暗殺者どもの網膜に映った光景です。この者たちはここで意識を失い、次に目覚めたのは牢の中だったようです」
「で、捕まったと分かって自死したわけだな?」
「そのようでございます」
「この若者は傭兵か何かだろう。素性を調べよ」
「承知いたしました」
ヒュブリスの命令により、偵察者が北海道へ派遣された。




