第11話:異端の皇子
第三皇子セリオスは慈悲の皇子と言われ、平民たちに絶大な人気を誇る存在である。
それは皇族の中では異端の存在でもあった。
皇帝の座は必ずしも長兄とは限らず、兄弟を蹴落とすくらいの冷酷な性格の者が継いでいる。
セリオスは争いを好まず、街へ出かけては教会に平和を祈り、教会付属の孤児院に寄付をしていた。
「あいつは愚か者だ。そのようなことに私費を使って何になる」
兄弟はそんなセリオスを嘲笑う。
彼等にとって平民それも孤児となれば価値のない存在であったから。
兄弟にはそんな者たちに私費を分け与えるセリオスが愚かに思えたのだった。
「殿下、私は貴方の為に働きたいです」
「いいよ。じゃあ私の側近になってくれ」
馴染みの教会で、神父の次男坊となった孤児ロウはセリオスに忠誠を誓う。
セリオスは快諾し、ロウを側近に指名した。
貴族ではない少年が王族の側近となったことは、平民たちに驚きと喜びをもたらした。
「殿下! 僕たちは騎士になって殿下を護りたいです」
「それなら、武術を学んだ方がいいね」
やがて、セリオスと剣術ごっこをして遊んでいた孤児院の男の子たちが、騎士に憧れを抱き始める。
セリオスは彼等の為に私費を投じて師範を雇い、稽古をつけてもらった。
そうして鍛えられた年長組の子供たちはセリオスよりも早く成人し、現在は望み通り騎士となって仕えている。
師範の息子もセリオスを慕い、護衛騎士隊長となった。
「派閥も領地も持たぬ平民など味方につけて何になる」
皇族たちも貴族たちも、平民贔屓のセリオスを馬鹿にしていた。
しかし騎士団の武術大会で、彼等は驚愕することになる。
本気で騎士を目指した者たちは強かった。
家柄で騎士に選ばれただけの貴族の子とは比べ物にならないほど。
セリオスの寄付で充分な食事を与えられ、しっかりと稽古を重ねた子供たちは、大会の上位を占めるほどの実力者に育っていた。
「まさか、奴はこれが目的だったのか?!」
「戦力で認められて世継ぎになるつもりか?」
忠誠心と戦闘力の高い平民騎士たちを見て、皇子たちが警戒し始める。
彼等はセリオスが皇帝の座を狙っているのではと疑うようになった。
そんな中、皇帝が世継ぎを決める前に急死するという事態。
それはセリオスが皇太子に指名されることを避けるためではないかとの噂もあるが、真相は明らかではない。
それから、皇子たちの帝位争いが始まった。
「私は孤児院の皆が働ける場を作っただけなのに、どうして争いに巻き込まれるのだろう?」
「セリオス様、今の帝国内は危険です。日本へ避難しましよう」
争いを憂うセリオスにロウが進言し、セリオスは信用できる者たちを連れて帝国を離れた。
皇子たちはそれでもセリオスを脅威と感じるのか、暗殺者を差し向ける。
最初にチンピラを装って襲ってきた者たちと、偽装銃で命を狙った男は、セリオスの兄弟たちの誰かが雇った者だろう。
帝国内にいることに比べればマシとはいえ、日本でも全く安全とはいえない、それが今のセリオスの状況であった。




