第8話:帝国式マーシャルアーツ
気が付けば、武道館の観客席は人でいっぱいになっていた。
ほとんど全校生徒が集まったのではないかという人数だ。
「えっ? アイカさまが帝国騎士団と対戦?」
「勝つかな? 勝っちゃうかな?」
観客席で、ワクワクしているのは圧倒的に女子が多い。
しかし格闘技の対戦だからか、男子も集まってきている。
「でも騎士団といえば帝国式マーシャルアーツの本家だろ?」
「学園のマーシャルアーツがどこまで通用するかな?」
男子は純粋に格闘技の見物を楽しんでいるらしい。
アイカは学園の武道系の大会助っ人をすることが多く、才能があることは皆知っている。
しかし騎士団という戦闘のプロ相手に学生の武術が通用するかと問われれば、誰もが「無理じゃね?!」と思ってしまう。
おまけに、この対戦は1対1ではない。
「え?! 2対5……?!」
中央に立つのがアイカ、その周囲を5人の騎士が囲んでいた。
アイカの隣にはセリオスが立っている。
「ではルールを説明しよう。周囲にいる5人の騎士は、殿下を害そうと襲ってくる敵だ。君は彼らが指一本触れられないように殿下を守りつつ倒すこと。いいかい?」
「はい」
「では、始め!」
審判役の先生が開始を告げる。
かなり愛歌には不利な状況だが、騎士団の護衛無しで皇子を連れて外出すれば、起こりうることでもあった。
「悪いが、手加減はしないよ」
騎士の1人が言い、5人は愛歌からセリオスを引き離しにかかる。
セリオスを連れ去られたら、愛歌の負けとなるのだが……
「えっ?!」
そこにいた筈のセリオスが、忽然と消える。
その横にいた愛歌もいない。
「ぐぁっ!」
次の瞬間、騎士の1人が声を上げて昏倒した。
ギョッとした直後、残りの4人も頭部に打撃を受けて次々に倒れていく。
「これでいいかな?」
最後の1人が崩れるように倒れた背後には、セリオスを横抱きにして、騎士を蹴り倒した後の片足を着地させる愛歌が立っていた。
「すごっ……」
「勝っちゃった……」
観客席がザワついている。
倒された騎士たちは何が起こったか把握できなかった。
しかし、離れた位置で見ていた生徒たちには、対戦の様子がよく見えていた。
騎士たちの手が触れるより早く、愛歌はセリオスを抱き寄せて跳ぶ。
姿を見失って驚く騎士たち。
愛歌は1人目の頭に蹴りを入れて昏倒させると、身を翻して2人目と3人目の後頭部にも回し蹴りを叩き込んだ。
小柄なセリオスを抱えたまま、4人目には飛び蹴り。
5人目の背後に回り、かかとを後頭部に向けて突き出し、蹴り倒す形で試合終了となった。
脳震盪を起こした騎士たちは、全員気絶して戦闘不能になっている。
愛歌は行動開始からずっとセリオスを抱いていたので、手は一切使っていない。
5人の騎士はみんな蹴りによって意識を奪われていた。
「どうだ? アイカは強いだろう?」
クスッと得意気に笑うセリオスだが、愛歌にお姫様抱っこされているので皇子というより姫に見える。
愛歌は女の子なのにセリオスを軽々と抱えているから、知らない人が見たら男性と間違いそうだ。
「気を失ってる人たちを保健室に運んであげて」
「「「は、はいっ!」」」
皇子を抱いたまま指示する愛歌に、対戦に参加していなかった騎士たちが慌てて返事をする。
運び出される5人をチラッと見た後、愛歌は美冬と春樹の方へ歩いていく。
「じゃ、行こっか。吐夢宗谷へ」
「クレープが美味しいと評判の店か。楽しみだ」
「ところで愛歌、いつまでセリオスを抱っこしてるの?」
「っていうか、お前ら性別逆じゃね?」
ニコニコしながら近付いて来る愛歌とセリオスに、美冬と春樹がツッコミを入れた。




