第4話:皇子と学生証
愛歌が警察に連絡して間もなく、警官と共に外国人が数人一緒に走ってきた。
現場で待機していた青年と少年がホッとしている様子から、多分味方なのだろう。
と思ったら、走ってきた外国人たちは少年の前で一斉に跪く。
「申し訳ございません!」
(え?!)
代表したように1人が詫びる。
隣にいた愛歌は何事かと思って少年を見た。
少年はといえば、ちょっと困り顔で笑っている。
警官たちは事情が分かっているらしく、襲撃犯たちを護送車に突っ込んで去っていった。
「御身を危険にさらした罪、我々はどのような処罰でもお受けいたします」
「街を見たいと我儘を言ったのは私だ。お前たちが詫びる必要は無い」
(もしかしてこの子、やんごとなき方?!)
跪く人々も少年も帝国語で話している。
会話の内容から、愛歌は少年が帝国の皇族だと察した。
北方の国々がシュタルク帝国という1つの大国になってから千年。
現皇帝が世継ぎを指名しないまま事故により急死したことで、帝位継承争いが起きていた。
ナイフの男たちは強盗を装い、皇子を亡き者にしようとしたのだろう。
「それよりも、この方に礼をしたい。命の恩人だ」
(……ん?)
皇子と帝国軍人らしき人々のやりとりを他人事のように眺めていた愛歌は、皇子が微笑んでこちらに視線を向けるのでキョトンとする。
なんだかキラキラした瞳で見上げてくる皇子はこのとき、大きな勘違いをしていた。
「先ほどの見事な立ち回り、貴方は名のある武人か?」
「え?」
「もしも今、依頼を受けていないのなら、私の力になって頂けないだろうか?」
(どうして、こうなった?)
彼は暗殺者を秒で無力化した愛歌を、傭兵だと思い込んでいる。
愛歌はしばし困惑してしまった。
金髪碧眼の美皇子様に見つめられている。
というより、見上げられている。
そっと手に触れられるが、エスコートと違う。
縋るような、頼られるような触れ方だ。
多分、性別を間違われている。
それどころか職業(?)が間違いだ。
愛歌は武人でも傭兵でもない。
「……え~っと……その……」
どう説明しよう? と考える愛歌。
そこでちょうどいいタイミングで、美冬と春樹の声が響いた。
「愛歌いた~! もう! 黙っていなくならないでよぉ」
「ずっと探してたんだぞぉ!」
話に夢中で愛歌が離れたことに気付くのが遅れた2人は、今まであちこち探していたらしい。
美冬と春樹は駆け寄ってくると、外国人たちがいるので怪訝な顔をした。
「……なんかあった?」
「やんごとなき方を助けてた」
「「???」」
美冬が問うので愛歌が答えると、更に謎が深まったのか幼馴染たちは揃って首を傾げてしまった。
一方、皇子と側近らしき青年と軍人たちもキョトンとしている。
皇子は愛歌に縋るように手を取っていたので、愛歌は片手をそっと離してもう片方の手首に着けている腕時計に似た物に触れた。
「皇子様すいません、私はこういう者です」
腕時計に似た物から現れるホログラフのようなものを、愛歌は皇子に見せた。
宗谷学園学生証
所属 高等部普通科1年A組
氏名 西野愛歌
「……え?」
多分予想外だったのだろう、皇子の思考がしばし停止する。
何が書いてあるんだろう? と側近の青年も見て、同様に固まる。
軍人たちは跪いたままなので見えておらず、固まる2人を不思議そうに見上げていた。




