第3話:異変
大通りからはずれた人目につきにくい路地裏に、物騒な物を手にした男が3人。
銃刀法に制限されない刃物=果物ナイフを向ける先には、背後に誰かを庇いながら男たちを睨む青年がいる。
(イジメ? カツアゲ?)
明らかに不穏な気配に、愛歌は眉をひそめた。
愛歌はナイフの3人組の後方にいるので、青年が庇っている人物の姿は見えない。
青年の背後は建物の壁面で、退路は断たれていた。
「何してるの?」
愛歌はわざと大きな声で問いかけた。
ナイフの3人組がギョッとして振り返る。
(外国人?)
茶髪なので不良グループの弱い者イジメかと思われたが、どうも違うらしい。
その顔は、いずれも北方民族と思われる外国人に見えた。
彼等の向こうにいる青年もよく見れば北方系人種のようだ。
「なんだお前は!」
「それ、ナイフだよね? 刺さったら怪我するよね?」
「……ちっ、味方がいたのか」
愛歌は彼らが帝国語で言うのを聞いて、自らも帝国語を使った。
責めるように言っただけだが、男たちは何か誤解したらしい。
愛歌も北方系の顔立ちな上に金髪や紫の瞳で、日本人とは思えないからだろう。
おまけに流暢な帝国語を話すのだから、間違われても仕方ない。
「違う! その人は関係ない!」
慌てて制止する声が、青年の背後から聞こえる。
まだ若い、声変わりを終えたばかりの少年のような声だ。
愛歌が巻き添えで害されることを心配しているらしい。
残念ながらその声は男たちにスルーされてしまった。
男たちは愛歌に近付いてくると、1人が無言でナイフを突き出した。
しかし、切っ先はかすりもしない。
というか、愛歌がそこにいなかった。
男たちは瞬時に視界から消えた愛歌を目で追えない。
愛歌は音も無く跳躍して男の背後に降り立ち、無防備な後頭部を蹴り上げた。
足が長く身体が柔軟な愛歌の蹴りは、しなやかで強烈な一撃となる。
男は脳震盪を起こして路上に頽れた。
「な…?!」
ギョッとしたのも束の間、2人目の男が顎を蹴り上げられて昏倒する。
残る1人も、眉間に強烈な蹴りが入って飛ばされ、路上に転がり動かなくなった。
「どっちが悪いか知らないけど、殺人はダメ」
と言う愛歌の声は、気絶した男たちには聞こえていない。
刃物を持つ男たちを秒で倒した愛歌を見て、助けられた2人が呆然としている。
(強い…)
(凄腕の傭兵かな?)
少年と青年は難を逃れてホッとしつつも、愛歌が何者か分からず困惑気味だ。
倒された男たちは強かった筈なのだが、愛歌は全て一撃で無力化していた。
(ん~、このオジサンたちどうしよう?)
一方、愛歌は当分意識が戻らなそうな男たちを見回して考えている。
気絶した者をその場に置いて立ち去るのは心配だ。
かといって意識が戻るまで待っていたら、また襲い掛かってくるに違いない。
(よし、関係者に聞いてみよう)
と思い付き、愛歌は振り向く。
愛歌を傭兵と勘違いした2人が、振り向かれて一瞬ビクッとする。
「これ、警察に突き出してもいい?」
「あ、はい」
愛歌が問うと、やや間の抜けた声で答えが返ってきた。




