第23話 分体網の進化――“一瞬の共有”
異形体を倒したあと、しばらくその場に留まっていた。さすがに連戦は危険だと判断したからだ。けれど、迷宮の空気は変わらない。むしろ奥へ進めと圧をかけてくるような、不気味な感覚が続いている。
「さっきの戦い……うまくいきましたね」
リラが静かに言う。
「だな」
俺も素直に頷く。レンは短く言った。
「前よりいい」
「それ“かなり褒めてる”やつだろ」
軽く笑う余裕はある。昨日の敗北とは明らかに違う。だが、それ以上に気になることがあった。
「分体網」
俺は小さく呟く。
「明らかに変わった」
「はい」
リラもすぐに反応する。
「干渉下でも機能していました」
「しかも一瞬なら、ほぼズレなかった」
レンも頷く。
「精度が上がっている」
俺は目を閉じる。感覚を探る。分体網を軽く発動する。
ピロン。
――接続安定化
「……今、なんか出た」
「出ましたね」
リラが即座に言う。
「表示、変わってます」
俺はもう一度試す。今度は少し長めに。だがすぐ切る。ノイズが来る前に離脱。
「やっぱり」
「前より“持つ”」
レンが言う。
「耐性」
「それだ」
どうやら分体網は、ただのスキルじゃない。使うことで“適応”している。
「成長してる?」
「可能性は高いです」
リラが真剣な顔で言う。
「迷宮の干渉に対して、適応しているのかもしれません」
その言葉に、昨日の水晶が浮かぶ。
迷宮核。
あれに反応したスキル。
「……やっぱり関係あるな」
「迷宮と」
その時だった。
ピロン。
──深部反応、増大
「またか」
今度ははっきり分かる。奥だ。明らかに“何か”が強くなっている。
「近づいていますね」
「たぶん核心に」
レンが言う。
「強敵」
「だろうな」
でも、今は少しだけ違う。
怖いだけじゃない。
「やれる気がする」
リラが小さく笑う。
「同じことを思っていました」
レンも言う。
「問題ない」
「それもう口癖だな」
俺は立ち上がる。
「行こう」
奥へ進む。
迷宮の深部へ。
途中、通路の様子が変わってきた。壁の色が濃くなる。まるで脈打つように、わずかに揺れているように見える。
「……これ」
「迷宮が“生きてる”みたいですね」
リラの言葉にゾッとする。
その時。
足元に何かが転がっているのに気づいた。
「これ……」
拾い上げる。
剣の欠片。
かなり質のいい装備だ。
「先行パーティーのものです」
リラが言う。
つまり――
「ここまで来てる」
レンが周囲を警戒する。
「近い」
その時だった。
ピロン。
分体網が強く反応する。
今までで一番強い。
「……奥だ」
確信する。
そこにある。
迷宮核。
そして――
異形体よりも危険な“何か”。
「準備しよう」
俺は二人を見る。
「次、多分ボス戦だ」
リラが頷く。
「全力でいきましょう」
レンも短く言う。
「倒す」
俺はもう一度、分体網を発動する。
ピロン。
今度は少しだけ長く繋ぐ。
安定している。
でもまだ完全じゃない。
「……まだ足りないな」
それでもいい。
今の俺たちなら。
「行くぞ」
迷宮の最深部へ。
すべての原因へ。
そして――
このスキルの意味を知るために。




