第21話 噛み合うための答え
迷宮の中層手前。俺たちは一度安全そうな広間まで戻ってきていた。さっきの異形体との戦闘から少し時間が経ったが、空気の重さは変わらない。
「……完全に負けましたね」
リラが静かに言う。
「だな」
俺も素直に認める。レンも頷いた。
「勝てない」
短いけど、十分すぎる結論だった。
しばらく沈黙が続く。悔しさはある。でも、それ以上に冷静に考えないといけない。
「原因ははっきりしてる」
俺は口を開いた。
「分体網が妨害されてる」
「はい」
「連携がズレていました」
リラがすぐに補足する。レンも続けた。
「タイミングが合わない」
「視界も不安定」
つまり――俺たちの強みが完全に潰されていた。
「じゃあどうするか」
俺は二人を見る。
「分体網なしでも戦えるようにする」
「……」
一瞬、空気が止まる。
リラが少し驚いた顔をする。
「それは……」
「厳しいです」
「分かってる」
俺も苦笑する。でも、それしかない。
「分体網は強い。でも万能じゃない」
「今回みたいに封じられたら終わりだ」
レンが言う。
「依存しすぎ」
「そういうこと」
リラもゆっくり頷いた。
「では役割を明確にしましょう」
「連携に頼らない形で」
いい流れだ。
俺は地面に簡単な図を描く。
「レンは前衛」
「今まで通りだけど、判断は自分優先」
「了解」
「リラは後衛」
「援護と魔法、でもタイミングは自分で決めていい」
「分かりました」
「俺は――」
一瞬言葉に詰まる。
正直、一番問題なのは俺だ。
「指示役だけど」
「無理に全部見るのやめる」
リラが言う。
「分散判断ですね」
「そう」
「全員が自分で動く」
レンが小さく頷く。
「悪くない」
これで少しはマシになるはずだ。
でも、それだけじゃ足りない。
「あともう一つ」
「分体網の使い方変える」
「変える?」
リラが聞き返す。
「完全同期じゃなくて」
「部分的に使う」
「……なるほど」
リラがすぐに理解する。
「必要な瞬間だけ使うということですね」
「そう」
「常に繋がろうとするから干渉される」
「なら」
「一瞬だけ使えばいい」
レンが言う。
「短時間なら通る可能性」
「それに賭ける」
正直、確証はない。でもやるしかない。
その時、奥から物音がした。
カサッ。
迷宮ゴブリン Lv9
迷宮ゴブリン Lv9
「ちょうどいい」
俺は立ち上がる。
「試そう」
レンが前へ出る。
ゴブリンが突っ込んでくる。
レンが斬る。
迷宮ゴブリン Lv9
撃破。
もう一体。
リラが矢を放つ。
迷宮ゴブリン Lv9
撃破。
……問題ない。
でもこれは普通だ。
「もう一回」
俺は言う。
少しだけ分体網を発動する。
一瞬だけ。
ピロン。
視界が繋がる。
すぐに切る。
「今!」
レンが動く。
リラが合わせる。
完璧とは言えないが――さっきよりズレが少ない。
「いける」
リラが言う。
「完全ではありませんが、干渉は弱いです」
レンも言う。
「使える」
俺は小さく笑った。
「よし」
「勝てる形が見えた」
まだ不完全だ。でも、ゼロじゃない。
異形体に対抗できる手段ができた。
「行こう」
俺は立ち上がる。
「もう一回、あいつとやる」
リラが頷く。
「次は負けません」
レンが言う。
「倒す」
俺たちは再び進み出す。
迷宮の奥へ。
あの異形体がいる場所へ。
今度は――
噛み合う戦いをするために。




