第1話 迷宮で目覚めた俺、いきなり虫に襲われる
目を開けた瞬間、俺は巨大な虫に囲まれていた。
「……」
数秒、沈黙。
「いや待て待て待て」
おかしい。
どう考えてもおかしい。
俺の周りには、黒くて気持ち悪い虫がカサカサ動いている。サイズは手のひらくらい。だが、牙みたいなものが見えている。
「これ完全にゲームのモンスターじゃん!」
俺は慌てて後ろに下がった。
足元は冷たい石の床。
周囲は岩の壁。
薄暗い通路。
「……洞窟?」
いや、違う。
これはどう見ても。
「ダンジョンだろこれ!」
最後の記憶を思い出す。
俺は普通の会社員だった。
夜、部屋でゲームをしていた。
コンビニ弁当を食べながら、だらだらとRPGをプレイしていたはずだ。
なのに。
「なんでダンジョンにいるんだよ!」
その時だった。
目の前に、突然光の文字が浮かんだ。
ピロン。
ユウト
Lv1
HP:50
力:10
防御:8
魔力:15
スピード:10
技能
転生網
「……」
俺は固まった。
「ステータス?」
どう見てもゲーム画面だ。
「いやいやいや」
思わず頭を抱える。
「これ、もしかして」
嫌な予感がする。
「転生ってやつ?」
最近よくあるやつだ。
異世界転生。
トラックに轢かれるとか神様とか、そういうの。
「……俺、死んだ?」
記憶にない。
全くない。
だが状況はどう見ても普通じゃない。
その時。
カサカサ……
音が近づいた。
「うわっ」
虫の一匹がこっちへ突っ込んできた。
するとまた文字が浮かぶ。
黒蝕虫
Lv1
HP:10
力:3
防御:1
スピード:5
特徴
迷宮の浅層に生息する小型魔虫。
単体では弱いが、群れで行動することが多い。
噛みつき攻撃を行う。
「魔物だこれ!」
完全にゲームの敵だ。
しかも。
後ろからさらに三匹出てきた。
「ちょっと待て!」
武器も防具もない。
どうする。
どうする俺。
その時、頭の中に声が響いた。
──技能使用可能。
「え?」
反射的に画面を見る。
技能。
転生網。
「えっと……」
とりあえず叫んでみる。
「転生網!」
その瞬間だった。
光の網が広がった。
バサッ!
黒蝕虫を包み込む。
「え?」
虫がジタバタ暴れる。
だが網は破れない。
そのまま締まる。
ギュッ。
そして。
パンッ!
虫は光になって消えた。
ピロン。
経験値獲得
Lv2になりました
「レベル上がった!?」
早い。
あまりにも早い。
「ちょっと待て」
俺は呆然とする。
「これ、かなり強くない?」
転生網。
モンスターを捕まえて倒せるスキルらしい。
その時。
後ろから音がした。
カサカサカサカサ……
嫌な予感。
ゆっくり振り向く。
そこには。
黒い虫の群れがいた。
十匹以上。
「……」
俺は冷静に言った。
「チュートリアルにしては多すぎない?」
虫たちは一斉に襲ってきた。
「うわああ!」
俺はとっさに手を出す。
「転生網!」
光の網が広がる。
バサッ!
三匹捕獲。
だが。
まだ来る。
「無理無理無理!」
もう一度。
「転生網!」
網が広がる。
虫が次々捕まる。
そして。
パンッ!
パンッ!
光が弾ける。
ピロン。
ピロン。
ピロン。
Lv3になりました
Lv4になりました
「レベル上がりすぎ!」
だがまだ終わらない。
残りの虫が飛びかかってくる。
その瞬間だった。
「危ない!」
声が響いた。
シュンッ!
光の糸が飛ぶ。
虫が一瞬で真っ二つになった。
「え?」
俺が振り向く。
そこには一人の少女が立っていた。
金色の髪。
青いローブ。
手には魔法の光。
「大丈夫ですか?」
少女が言う。
「えっと……たぶん」
俺はまだ状況を理解できていない。
「あなた、初心者ですよね?」
「いやたぶん」
「はい?」
「俺もよく分かってない」
少女は困った顔をした。
「私はリラです」
「ユウト」
簡単な自己紹介。
その時。
通路の奥から足音が聞こえた。
コツ……コツ……
一人の男が現れる。
弓を持っている。
「リラ」
短く言う。
「騒ぎを聞いた」
「レン」
リラが言う。
「この人、迷宮で迷っていたみたいです」
レンは俺を見る。
じっと観察する。
「……新人か」
「たぶん」
俺は苦笑する。
「気づいたらここにいた」
レンは少し考えた。
そして言う。
「なら」
「?」
「一人で死ぬより」
弓を肩にかける。
「一緒に動いた方がいい」
俺は思わず笑った。
「それは確かに」
こうして。
迷宮で出会った三人の探索が始まった。
だが。
まだ誰も知らない。
この迷宮の奥にあるもの。
そして。
俺のスキル「転生網」が、この世界の運命を変えることを。




