6:泣くなよメル、ここは笑うトコだ!
あれからこっち、女冒険者は考えていた。
あのポーション、もう一回飲みたいな、と。
最初に飲んだときは心底驚いた。
ポーションって苦いから一気に飲み干そう。そう思ってグイっとやったら、口の中へ広がる爽やかな甘み。驚きのあまり戦闘中だというのに痛みも忘れて「何コレ!?」と大声を上げてしまった。
1円という値段にも驚いたが、あの飲み口は別格……少しのダメージでもつい飲んでしまい、あっという間に全部なくなった。十二本もあったのに。
また買いに行きたい。でも少し遠い。途中の道が細く、徒歩でなきゃ行けないというのもネックだ。
そう思い、普通のポーションで我慢しようとしたのだけれど……飲む度に、口に残る独特の苦味が気持ちを盛り下げる。たまに舌触りの悪い不純物が混じっているのも嫌だ。作り置きされた古いポーションに当たった時など、ヌルヌルしてて吐きそうになってしまった。
あの甘いポーションなら、こんなことないのに。
気付けば彼女は辺境のダンジョンを――否。甘いポーションを販売している露天商を目指していた。
店に着いたら、多めに売ってくれないか交渉してみよう。勿論1円だなんてケチなことは言わない。その為の資金も持ってきた。
ずっしりと重い財布を抱え、最も近い宿場から歩き続けること約半日。
件の露天商へ到着した彼女は、驚きの声を上げることになる。
「な……なに、コレ? どういうこと……?」
ズラリと並ぶ色とりどりのポーション。それらのラベルには、こう書かれていた。
カレー風味。ピザ風味。焼き鳥風味。
「違う味が売られてる!!」
「ええ、最近売り出しまして。試飲、如何です?」
おちょこサイズの容器に入れて差し出された、薄茶色のポーション。口元に近づけただけで分かる、食欲を誘うスパイスの香り――カレーだ!
飲む前から口の中にヨダレが湧き出る。それを堪え、口にした瞬間――ごはんが欲しくなる!
「お、美味しい……凄い、どうなってるの? 前のポーションも凄かったけど、これは……!」
言葉を失う女冒険者。食レポが出来る語彙を持ち合わせていない自分が心底腹立たしい。
「お喜び頂けたようで何より。このフレーバーポーションは流石に1円では難しいのですけど、ギリギリまで勉強させて貰ってます」
露天商の青年(何の特徴もない普通の男だ)に言われて価格を見ると、値札には130円と記されている。
普通の店売りポーションよりは高いが、ダンジョン前の露天売りなら200円が付いていても当たり前。それを思えば十分に良心的な価格設定であるし、何より他では代えがたい価値が、このポーションにはある!
「あの……買えるだけ買いたいんだけど、良いかしら? お金なら用意してる」
「はい! ありがとうございます!!」
こうして彼女たち冒険者一行は、ダンジョンへ潜ることなく大量のポーションだけを抱えて、帰路に付いたのだ。
「……やった! やったぞメル! バカ売れだ!!」
喜びの声を上げて小躍りのテオ。その後ろではメルルゥが目を潤ませ、プルプルと震えている。
「わ、私の……ポーションが……売れた。あ、あんなに……沢山……!」
「だから言っただろ、絶対に売れるって! お前のポーションは、それだけの価値があるんだよ!!」
ポーションの味にバリエーションを持たせる。
それがテオが掲げた、第二の作戦だった。
甘くて美味しいだけで十分な驚きがあるメルルゥのポーションだが、それだけでは飽きられてしまう。甘味が苦手な者もいるだろう。それ故の変化球。それが味変だった。
しかし気がかりだったのは、メルルゥの調薬でそれが出来るのか。出来たとして、どの程度のクォリティが出るか。
迷ったテオであったが、彼はメルルゥを信じた。そしてメルルゥは、彼の予想を大幅に超えた逸品を作り出したのだ。
「見たかよ、さっきの反応! ごはん炊いて売ってたら買っていきそうな勢いだったぜ!? 今度から並べてみるか? もっと売れるかもな!」
「嘘みたい……とても、し……信じられません。だって、これまで……誰も……! でも、あんなに……私のポーションで、あんなに喜んでくれて……!」
一生懸命作ったポーションが全く売れず、在庫を抱え、泣く泣く廃棄する日々。空き瓶と空っぽの財布を抱え、ひもじい思いをしながら眠りについた夜の寒さ。
それらが次々と脳裏を過り、潤みきったメルルゥの瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。
「うっ、うっ、うぅぅーーー……!!」
「泣くなよメル、ここは笑うトコだ! ほら、もう次の客が来た! 見てな、またドカっと売り捌いてやるからな!」
意気を揚げ、テオは不敵な笑みを浮かべる。
そして日が落ちる頃、準備していた数百に及ぶポーションは、一本残らず完売したのだった。




