5:やっても良いんですか!?
その日は、朝から気持ちの良い青空が広がっていた。
ダンジョンの前にゴザを広げ、手製の看板を置いて設営完了。ただこれだけの店舗であるのだが、何日も続けていると愛着が湧いてくるのだから不思議なものだ。
「今日は何組くらい来ますかね」
「どうだろうな。そろそろだと思うんだけど……」
疎らに並べたポーションの瓶が陽光を照り返して輝き、それをボンヤリと眺めていた……そんな頃合いだ。いつものように、冒険者一行が姿を現した。
しかし今回の来訪は、これまでとは少しだけ違っていたのだ。
「あぁ、良かった! まだやってる!」
訪れた冒険者一行は開口一番そう言うと、こちらへと駆け寄ってきた。
「いらっしゃい! あ、前に来てくれたお客さんですよね? 毎度どうも!」
テオの言葉通り、訪れたのは彼が店番を開始して最初に訪れた、オーソドックスな構成の冒険者一行だった。
「まだ1円ポーションやってるんだよね? 今日も上限まで買いたいんだけど、いいかな?」
「ええ、勿論。お買い上げありがとうございます!」
魔法使いらしい女性にポーションを渡すと、彼女は嬉しそうにそれを道具袋へと仕舞い込む。
「ったく、仕方ねぇヤツだよ。アンタの所のポーション、甘いだろ? だからもう他のポーションは飲みたくないとか言いやがって、わざわざこんな僻地まで遠征だぜ」
やれやれと苦笑しつつ、リーダーらしい戦士の男性が言った。聞けば近くのダンジョンへ潜る予定だったのを、こちらへ変更したらしい。
「別にいいでしょ? アンタだって美味しいって飲んでたじゃん!」
「ダメージ受けりゃ、そりゃ飲むさ」
「マズイやつ飲めばイイじゃん! それを私が取っておいた分まで……!」
そのようにして痴話喧嘩っぽい会話を繰り広げた後、オーソドックス冒険者たちは今日もダンジョンへ潜って行った。
「ふっ……クフフフ……ふはははっ! いいぞ、計算通りだ!」
「て、テオさん……悪い顔になってますよ」
若干引き気味にメルルゥが言うと、テオは更に悪い顔になって声を上げる。
「リピーターだ、リピーターが付いたぞ! メルのポーションなら必ずこうなると思っていたが、ここまでとは! もう彼らは普通のポーションでは満足の出来ない身体になった……奴らは何度でも来るぞ!」
「えぇ? でも何度来てくれても売り上げが1円じゃ……あ、そっか!」
ぽん、と手を打つメルルゥ。
「ここでポーションの価格を普段通りに戻すんですね!? 凄いです、テオさん! 悪辣です!」
この数日でメルルゥも、テオに対してはあまり遠慮がなくなっていた。
悪辣呼ばわりされたテオは少し傷付いた表情を見せたものの、すぐに立ち直る。
「悪くない方法だが、今回は違う! 1円ポーションは今後も続ける! その上で――」
メルルゥの眼前に右と左、指を一本ずつ立てた。
「二つ、策を仕掛ける! 先ずは一つ『ついでに買って行こう』作戦だ!!」
「あ、それってもしかして――」
彼の作戦にメルルゥは心当たりがあった。
「来てくれたお客さんに、1円ポーション以外も買って貰おう、ってことですか?」
「そう! そのとぉり!!」
唸るようにテオが叫ぶ。
昨日辺りから店頭にはポーション以外の、毒消しやら麻痺消し、松明やロープといった消耗品がチロッと並んでおり、それらも時々売れていた。そしてそれら商品は、しっかりと利益を取った露天価格だったのだ。
「このダンジョンの三層以降には毒や麻痺の状態異常を与えるモンスターが出る。だから慎重な連中は念の為で買おうと思うし、ポーションが安く手に入ったのだからと財布の紐も緩む!!」
「はー……策士ですねぇ」
溜息と共にメルルゥが呟く。
普通、ダンジョンへ潜る冒険者たちは事前準備を整えてから事に挑む。しかし準備漏れや道中での変則的事態で予定が狂うことも珍しくはない。そんな時、ふと立ち寄った店に欲しい品があったなら? 少し高くても買ってしまうというわけだ。
「そして、もう一つ!!」
テオが残る指をメルルゥにぐいーっと近づける。
「ただコレについては……勝算はあるんだけど、メルの協力が必要不可欠だ。というわけで、ちょっと尋ねたいんだけど……」
「何でしょう……ひゃんっ!」
耳元でボソボソを呟かれ、メルルゥがくすぐったそうに肩を竦める。
「……出来るか?」
「え……出来ますよ。っていうか、やっても良いんですか!?」
コソコソ話を終えたメルルゥの表情が、パッと明るくなった。
そしてテオはニヤリと悪い笑みを深める。
「よぉし、話は決まった! んでわ、夫々の作戦に向けて今日も売りまくるぞ!」
「おーーーっ!」
天に向けて拳を突き上げて、ダンジョンの前に威勢の良い声が響く。
そして本日の売り上げは、少ないながらも過去最高を記録したのだった。




