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【第2章完結】1円ポーションから始める弱者救済マーケティング ―黄金の滴と賢者の秤―  作者: かっぷ
第一章:メルルゥ・アンブローシア

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21:冒険者ギルド連合、東部管轄第二支部

 今日も今日とて、小端洞冒険者ギルド支部は大賑わいだ。

 人々が絶え間なく行き交い、物と金が交換され、経済が動く。

「はい、達成報告ね? これで討伐確認……何よ、姫の微笑み? はいはい微笑み微笑みっと、これで良いわね、お疲れ様……はぁ? 罵って欲しい……? 馬鹿じゃないの、この変態冒険者。さっさと行きなさい!」

 ミカン箱カウンターに立ち、次々と舞い込む依頼を捌くフィオナ。身に着ける制服は以前のままだが、その腕には「支部長」の腕章。メルルゥの手作りだ。ミカン箱は実用に支障がなく、収納力もあって意外に便利なのでそのままになっている。

「支部長、ポーター隊はそろそろ出発する。戻りは三日後だ」

「分かったわ、プレゾ。気をつけて……アナタたちも、無茶しちゃダメよ!」

 隊列を組み、小端洞を出て行くプレゾたちポーター隊。

 メルポ・ハイドレーションを用いた運送は荷馬車などが使えない地域を中心に大きく広がり続け、メルポ・ロングエステによる鮮度維持と合わせて運輸の定番となりつつあった。

 通称は「銀鱗便」。運んでいる魚の鱗からのイメージで、そんな風に呼ばれ始めている。

 現在、その銀鱗便の道具とメルポ、各種ノウハウをセットにして一般販売する計画も進行中だ。

「よう、フィオ。お疲れさん……今日も朝から忙しいな」

「ま、お互い様ね。そっちも一段落ついたのかしら」

 フードコートの台所から、テオが姿を見せる。早朝の繁忙時間帯を終え、ちょっと一息といった所だ。

「あの娘は? 姿が見えないけど……」

「メルなら、新しいポーションを作るとか言って外に居るよ。また草でも毟ってるんじゃないか?」

「好きこそ物の上手なれとは言うけど……あの娘も大概ね」

 溜息と共に「呆れた」と首を振り、小端洞の外へと視線をやる。

 フードコートには人を雇って人員を増やし、メルルゥの負担は軽くなったのだが……本人は走り続けることを止めず、その分の余力でポーション開発に打ち込み始めた。

「ま、今後のことも考えたら、それが正解かもな。メルは末端のポーション屋なんかで収まるタマじゃないって気がするよ」

 言って、テオが髪をかき上げる。出会った頃よりも少し伸びた彼の髪――その隙間から、大きめの傷跡が覗く。バルカスに本で殴られた際の傷跡だった。

「――その頭の傷、残っちゃったわね。メルポで治らなかったの?」

「あぁ、たいしたことないと思ってほっといたら、傷跡になっちまった。でもちょっと箔が付いたって感じでカッコイイだろ?」

 ニヤリ、とテオが笑う。

 傷跡が格好良いかどうかはさておき――彼に身を挺して庇われた時、フィオナが胸の高鳴りを感じたのは――絶対に秘密だ。

「そういや、バルカス……更迭だって? 後任は……って、聞くまでもないか」

「そうね。ヘルヘルトさんが室長になって、外務監査と衛生調査員を兼任するそうよ。彼も苦労人ね」

 支部設立の可否に対する、外務監査官の恣意的かつ不正な運用。

 小端洞支部での不祥事を受け、冒険者ギルド本部は新たなルールを制定。第三者委員会を設けるなど、連日の対応に追われている。

「これで全てが良くなるとは思えないわ。でも……少しはマシになるんじゃないかしら」

 すぐに全てを変えることは、難しい。大組織であれば、尚更だろう。

 しかし自分のような思いをする者が一人でも減るのなら、それはきっと無駄ではない筈だ。

「フィオは……いいのか? ギルド本部から声が掛かったとか聞いたぞ。辺境の支部長より良いポジションなんだろ?」

「まあね。でも、用意された役職なんて迷惑料か口止め料みたいな物だもの。興味ないわ」

「勿体ねぇなぁ……迷惑の補填だとしたって、そこに収まってりゃ悠々自適だってのに」

 苦笑するテオであったが、彼女もメルルゥ同様、そのような場所で収まるタマではない。放っておいても用意されたポジションを踏み越えて、遙かな高みへ登り詰めるだろう。

 と、そんな話をしていた時だ。

「あ、あぁぁっ! テオさん、テオさぁん! 大変マズぃコトに……て、手伝って! というか、助けてぇ……!」

「……っと、なんか外でメルが呼んでるな。ちょっと行ってくる、また後でな!」

「はい、行ってらっしゃい……気をつけてね」

 外から聞こえたメルルゥの呼び声を受け、駆け出すテオ。

 その背中に視線を送り、フィオナは呟く。

「本部になんて、行くわけないでしょ。ここが私の、居場所なんだから」

 ハーフエルフの少女は、支部長の腕章をぐっと持ち上げ、姿勢を正す。

 そして今日も、ミカン箱カウンターに立つのだった。




 静かな夜。

「――あれ? テオ……さん?」

 トイレに起きたメルルゥが川縁を通りかかると、少し向こうにテオの背中が見えた。

「これはもしや、アレですか……セルフバーニング的な? ふむぅ……邪魔しちゃ悪いですよねぇ」

 そう呟いて立ち去ろうとするメルルゥであったが……僅かなイタズラ心と好奇心が勝った。

「後学の為にも、ちょっとだけ……」

 抜き足差し足で忍び寄り、ドキワクで木陰からそっと覗く。

 だが、どうやらテオは一人でお楽しみ中というわけではなかったらしい。

 無表情のまま流れる川を見つめ、懐から取り出したポーションの瓶を――メルポを、一気に飲み干す。

 すると彼の全身が緑の輝きに包まれるのだが――。

「……あれ?」

 その輝きは淡く、極めて薄く……やがて儚くも霧散し、夜の闇に消え失せた。

「どうして……」

 呟くメルルゥ。

 その視線の先で、テオは静かに水面を見つめ続けていた。

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