1:爆安! 1円ポーション!!
プロローグ ―現在―
辺境にあるダンジョンの出入り口付近で、小さな店を構える露天商。
その看板に書かれている文字に、冒険者たちは誰もが皆、目を見開く。
『お一人様三本限定、1円ポーション販売中』
足を止めた冒険者に露天商が売り込みの声を掛ける。
「どうっスか、そこのダンナぁ! イイ感じのポーション、入荷してますよォ!」
「い、1円って……本気か? 普通は100円くらいが相場だろ!?」
試験管のようなガラス瓶を手に取った冒険者は、鑑定でもするかのように左右へ揺らす。封入された黄緑色の液体は滑らかに揺れ動き、澄んだ輝きを見せた。
「不純物もねぇし、混ぜ物でもなさそうだな……本当に1円で構わないのか?」
「ええ、勿論! まぁ、冒険者サマ支援価格ってコトでね! 良かったら他の商品も見てってくださいよ!」
困惑の表情を浮かべつつ冒険者は1円ポーションと、毒消し、麻痺消しを夫々購入した後、ダンジョンへと潜って行った。
「よしよし、今日も幸先がイイぜ。もうちょい商品補充しとくかぁ?」
ニンマリと会心の笑みを浮かべる露天商の若者。
中肉中背、ブラウンの短い髪に、深いブルーの瞳……特筆すべき事柄など何一つない、どこにでもいる二十歳そこそこの青年だ。
敢えて言及するのであれば、笑顔が少し気持ち悪い――その程度だろうか。
「テオさん、追加ポーションですか? 私、取りに行きますよ」
そんな無個性な青年の背後から顔を出したのは、彼とは逆に個性的な――平たい言い方をするなら、非常に可愛らしい少女だった。
淡いミントグリーンの髪を低い位置で一つに束ね、愛らしく整った顔には大きな丸眼鏡。身に着けるエプロンドレスには茶色や緑の汚れがこびり付いていたが、それでもなお可愛らしいと感じさせる、それ程の美少女だ。
「おぅメルルゥ、悪ぃけど頼めるか? あと天気も悪くなりそうだから――」
「はい、雨具ですね。承知しました!」
メルルゥと呼ばれた少女は笑顔で頷くと踵を返し、長い髪を揺らしながら走り去ろうとして――。
「きゃぅ!」
躓き、スッ転ぶ。
運動は得意でないらしい。
「おーい、気をつけてな。ゆっくりで構わないぞぉ!」
青年の声に手を振り返し、メルルゥは再び走りだす。きっとまた、何処かで躓くのだろう。
「怪我しなきゃいいけど……それにまだ、今日は始まったばっかりなんだ。ノンビリ構えていこうぜ……!」
大きく伸びをして、佇まいを正す青年。
彼の名は、テオ・ヴァン・クロム。
英雄でも強者でもない彼の名が、長く後世に残ることを、いまはまだ誰も知らない。




