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7. 風の神殿 

 翌日、三人が船の前に来た時には、すでにパウエルが待っていた。彼はタリス達を見ると聖剣を渡し、


「やっと来ましたか。まあ、私が早く来すぎただけですが……。ところで、この辺りにはあなた方の乗って来た船が見当たりませんが、どこに泊めたのですか?」と言った。


「あのね、岩にだよ!」

 そうフェーが答える。リディアが続けた。


「向こうの山を越えたところに在る岩場に繫留したんです。この場所には気付かなかったから」


「まあ、むしろその方が良かったかもしれませんね。見知、ぬ船が入って来たとなると、ここの人達も警戒するでしょうし」


 パウエルはそう答えると船に乗り込んだ。そうして、皆が甲板に乗ってしまうと、「では、行きますか」と言って船を発進させた。



 タリス達が授かった船は、非常に立派なものである。そのため、知らぬ人が見たら、あの船には大勢の人間が乗っているに違いない、と思う事だろう。


 船を動かすための燃料はあらかじめ大量に積んであったのだが、王はそれでも足り無いのではないかと心配して、後で買い足すための金銭までタリスに与えた。

 

 そのことについてパウエルは、ペンダントがあればそもそも燃料など必要ないのではないかと言っていたが、竜の神子といえども、ペンダントの力を行使するのには精神を消耗するので、金があればそれだけ助かることになる。


 舵は始め、パウエルとタリス、それにリディアが交代で握った。だが結局は、波や船の構造に最も詳しいパウエルが操舵を担当することとなった。



 神殿のある島に着いた時は正午になっていた。

 最初に島に降り立ったパウエルが、


「テントを運ばなくてはいけませんね。それに、水や食料もですか」と言った。


 だが、それを聞いてリディアは首を振った。


「水ぐらいなら、ペンダントの力で何とか出来るわ」


「ですが、それではあなたが疲れてしまうんでしょう? でしたら、皆で協力して水を運んだほうが良いのではありませんか?」


「ええ。でも、水は空気だとか、植物とかから取り出せるから、そんなに疲れないんです。そこにない物を作るのは大変だけど、存在するものの形を変えるだけなら簡単なのよ」


 そうリディアが説明した。それを聞いてパウエルは何かを思い付いたらしく、楽しそうに呟き始めた。


「なるほど! しかし、竜の神子がしているのは、無から有を作り出す作業ではないはずです。


 物質の形を変えるのも、そこにない物を作り出すのも、結局はペンダントに蓄えられているエネルギーを取り出し、それを別のエネルギーに変換するという作業なのですから。

 

 しかし、そう考えると不思議ですね。蓄えられた力を、目に見えないエネルギーに変えるのは容易であるのに、片や質量というエネルギーに変えるのは大変だなんて。


 神子の精神が関与しているのか、或いは、ペンダントに蓄えられたエネルギーが、もともと物理的なものだったとか。いや、まてよ……。おっと、すみません。つい夢中になっちゃって。まあ、とにかく水はいらないんでしたね」


「ええ。でも、パウエルさんは本当に研究が好きなのね」


 自らも楽しそうにリディアが言った。

 それを聞くとパウエルは少し笑って、「では荷物を分けますか」と言った。


 全員に持ち物が行き渡ると、さっそく出発することになった。四人は風の神殿へ向けて真っ直ぐに歩いて行った。


 この島はほとんど人が訪れることがないので、彼等は、自然のままの美しい草原を目にすることが出来た。しかも植物はただ美しいばかりではなく、歩いた時足にかかる負担も軽減してくれる。


 そのため、高性能の寝袋やテントのためもあり、風の神殿まで数週間かかったにも関わらず、さほど体が疲れたようには感じなかった。

 

 そうして風の神殿に着いたタリス達は、神殿の美しい外観に圧倒されることとなった。パウエルは、入り口から建物を見上げて、


「……これは、想像していたよりも。いやあ、あなた方と共に来なければ見られませんでしたね」と言った。


 しかし、誰よりもこの神殿に感銘を受けたのはタリスであろう。彼は神殿の前で立ち止まり、黙って長いことそれを眺めていた。


 この建造物は、タリスにとって神聖なものであり、自分の運命の道標であり、そして憧れでもあった。彼はまだ見ぬ神殿を守るため、幼少の頃からずっと訓練を積んできたのだ。

 

 タリスは、リディアも同じように感動していると思って彼女の方を向いた。しかし、リディアは何故か首を傾げていて、一向に感動する様子を見せない。


 彼女は、タリスが自分のほうを向いているのに気が付くと、

 

「ねえ、タリス。この神殿ってもっと、何か、光り輝いてなかったかしら」と言った。


「え? 長老のからはそんなこと聞いてないけど」


「そうかしら。でも、私が知ってるのは、薄い緑に包まれている光景なのよね」


 それを聞いてパウエルが言う。


「確かに昔はそんな色だったようですが、現在は表面が風化したのか、色合い的にはその辺の石と何の変りもありませんね」


「ねえ! リディア、ここに来たことあるの?」と、フェー。


 リディアは「どうして?」と聞き返した。


「だって、知ってるって言ったじゃないか」


「確かにそう言ったわ。でも、私は神殿に来た事なんて無いわよ。なんとなく口に出てしまったのよ」


 少し考えてからリディアがそう言った。


「まあ、ここでこうしていても始まりませんから中に入りましょうか」


 そうパウエルが言い、四人は中へと入った。

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