幕間
銀髪の男は、静かな森の中で暮らしていた。
彼は長身だった。
森には一軒の打ち捨てられた小屋があり、その中に男は住んでいた。
彼は何日かに一度、食料を得るために外出した。しかし森の外に出ることはなかった。
町まで行かずとも、森にはたくさんの食べ物があった。
川や大地が男を飢えから守っていた。
彼は時々考えた。俺は、いつまでこうしているのだろう……。
ある日男は何かを感じた。それが何だったのか、或いはただの思い違いだったのかは、その時点では彼にも分からなかった。
しかしそれを教えてくれる者がいた。
何かを感じてから数日後、彼の前に真っ赤な服を着た一人の少女が現れた。
少女は男の見ている前で、何もない空間から突然出現した。
少女は言った。
「あんたは迷っている。……当ててやろうか? あんたはあれが彼女のものだったって信じ切れずにいるんだ。そうだろう?」
「『あれ』とはいったい何のことだ! 俺は何も迷ってなんかいない。出ていくんだ、早く!」
男は自分の内面が覗かれたような気がして、思わず声を荒げた。
だが、少女はからかうように笑った。あまりにも、落ち着いた態度だ。
「そんなこと聞いて、本当は分かってるんでしょ? あんたは何日か前に何かを感じ取ったはずだ。そしてそれは彼女の意識だった。それだけの事なんだよ。真実はいつも単純なんだ。ただそれをヒトが難しく解釈してるってだけでさ」
にやりと笑って少女はそう言った。男はそれに答えず、ただ名前だけを聞いた。心を沈めようとしてそうしたのだ。
「私の名前かい? 私はね、チクチャンっていうんだ。……それにしても、あんたは驚かないんだね。私がここに出現したことをさ」
「驚くほどの事じゃないさ。それより、気が変わった。彼女の意識とはどういうことだ」
男がそう言うと少女は笑い、そして質問に答えた。
「そうだよ、私はあんたにそれを教えるために来たんだ。いいかい、あんたにとって大切なあの女は、今お前を呼んでいる。その魂の鼓動を、意識の叫びをあんたは感じたんだ。だったら行ってやりなよ。ね?」
男はなかなかそれに答えなかった。だがしばらくして、
「本当にそれは彼女の望みなのか?しかし、そんな馬鹿な」
と呟いた。
それを聞いて少女は顔をしかめた。
「あんたはまだそんなことを言っているのかい? いいか、あんたが感じたのはあの人の意識だ。そしてそれは事実なんだよ。それに応えるかどうかはお前次第だけどね」
少女がそう言うと男は表情を引き締める。そして、自分に言い聞かせるために言う。
「呼んでいるのなら俺は応えよう。確かにあれは彼女のものだったのだ」
「いいね。あんたがそう決めたんなら私も手伝うよ。いいでしょ?」
男は肯定も否定もしなかった。そんなことをしても無駄だと思ったからだ。
「お前とは以前にも会ったことがある気がする。……俺の事はどこで知ったんだ?」
「さあね。……ところで、一緒に行っていいかい?」
男は小さく頷くと歩き出した。森の外に向かって。
その後ろから嬉しそうにチクチャンが走って行った。




