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21.5 チクチャン

 チクチャンは黙って周囲を見回した。


 そこで何が起こったのか、彼女は知っていた。だが、それは予想外の衝撃を彼女の心に与えた。


 自分を見て、タリスや、パウエルが何か言っていたようだが、チクチャンには何も聞き取れなかった。


 どれだけの時が過ぎたか、チクチャンには分からなかった。彼女は姿を見せることを止め、そこに佇んでいた。


 浮かびながら、扉をくぐる人影を眺めていた。タリスとリディアが、最後の戦いに向かったのだ。


 彼等を見て、チクチャンは笑った。何故だか分からないけれど、彼等の意志、力強い精神、それが理解できる、そのことが楽しかった。


 否定されない意志、それが彼女に喜びを与えた。


 意識を禁じられた世界で生まれた少女は、この世界に来て、初めて親と切り離された。与えられた意志と、自らの意志とを区別しだした。


 けれど、自分はオロチの一部に過ぎないとも感じていた。そしてそれは事実だった。


 だから、最後まで迷い、ウィッテの下を離れ、結論を先延ばしにしていたのだ。その結果、彼女はここにいる。


 本来なら、このままオロチの下へ行って融合し、力を差し出すべきかもしれない。しかし、今や彼女はオロチでは無かった。


 ウィッテは、自分の正体を知りながらも、共に居てくれた。そんな彼を、彼女は愛してすらいた。しかし、彼を止める事は出来なかった。


 存在を与えられたときから、オロチを裏切ることは、自らを否定することだと考えていたから。


 彼女は、オロチの血から生まれた。セシリアに封印された竜は、自らの血液使って、チクチャンをつくった。


 いつの日か、力が回復した時に、再び扉を開けさせるために。


 そうして生まれた少女は、十六年前、セシリアの魂と共にこの世界に来た。封印はされていても、小さな魂はすり抜けることができた。セシリアの魂は、偶然なのか、元の世界に戻りたいという想いによってなのか、チクチャンの足を捕まえ、彼女についてきた。


 チクチャンはこの世界に来て、ウィッテに会い、扉を開けるよう彼に言った。


 今、扉は開いている。けれど、それは彼女の意志では無く、オロチの意志であった。


 チクチャンは、今になってやっとそのことに気が付いた。


「けど、もう遅すぎだ」そう彼女は呟いた。

 

 もう全てを失ってしまった。自分を認識してくれる人も、親への執着すらも。自身の感情が芽生えていることを認めず、道化を演じているうちに手遅れになってしまった。


 タリスやリディアは自分を受け入れてくれるだろうか。

 

 そう考えて、これも今の状況から目を逸らすための口実に過ぎないのだと気がつきチクチャンは薄く笑った。


 複雑な心境だった。これまでは、口実すら許されなかったのだから。

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