表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/26

21.長い夢の終わり

 セシリアと呼ばれた女性は、ウィッテに近づいて行った。彼の頬を撫でる。顔に、鋭い傷が刻まれた。


 ウィッテは傷口を手で押さえる。手には血がべっとりと張り付いていた。彼女は微笑む。 


「ウィッテ。もう、終わりにしましょう。どうせ戻らないんだもの。全ては失われ、過去も、未来も、一つになるんだわ」


 そう言った彼女の微笑みは、いたずらをする稚児の、無邪気な笑顔へと変わっていた。


 そしてそれは、徐々に醜悪なものへと変化していく。あるいは、それは人の形を失ってゆく。歪み、捻じれ、砕け散る。光子が精霊となって舞い、再び集合する。やがて、元の肉体は消え去り、オロチがその姿を現した。


 正体をあらわした竜は、ウィッテをその爪で切り裂いた。

 

 彼は倒れる。オロチはリディアを睨んだ。睨みながら、自身が封じられていた、忌まわしき過去を思い出したかのように呻く。それから、オロチの顔に笑みが浮かぶ。


 リディアの身は危機に瀕している。ウィッテは掠れる声で、セシリアとつぶやいた。


 その声に呼応するかのように、タリスの腰下で剣が輝き、オロチの頭上に光を呼んだ。空からの光に照らされると、オロチは苦しみだした。


 その叫びは空を震わせ、あまりの巨大さに、聞き取る事すら難しかった。しばらくして光が収まると、竜はもう、今にも崩れてしまいそうに見えた。


 最後の力を振り絞って魔界へと帰っていく。闇が溢れる出る中で、一つの脅威が去ったのだ。



 オロチが見えなくなると、リディアはウィッテに駆け寄った。彼の前に座り、傷ついた頬を撫でる。


 ウィッテが、小さく彼女の名を呼んだ。その声はリディアの耳に届かない。だが、聞こえずとも伝わっていた。それは口の動きからだったかもしれない。


 けれど、力強い穏やかさと共に、彼女は返事をした。ウィッテは仰向けのままで片手を持ち上げた。リディアの顔に触れようとしたのだ。だが、目が見えないのか、彼の手は宙に浮いたまま彷徨っている。


 それをリディアが優しく導いた。


「セシリア……」


 ウィッテはそこで黙ってしまった。

 彼の体は足先から崩れ始めていた。


「ウィッテ、私は、あなたに再び会えて、とても嬉しいわ。でも、あなたはもう……それなのに、その気持ちは変わらない。あなたも、同じ気持ちだったらって、そう思ってしまうの。……ごめんね、何を言っているのか、分からないわよね。今、私がここにいるのも、あなたがいてくれたからなのよ……」


 リディアがそれを言っている間にも、ウィッテの体は崩れていった。もしかすると、もうそこに彼はいないのかもしれない。けれど、聖剣が彼の想いを叶えたのだとすれば、肉体は朽ちても、最後に、感謝の言葉だけは聞こえたはずだ。そうタリスは思った。リディアは、今はセシリアなのだとも。


 長い間、誰も何も言わなかった。やがて、リディアは立ち上がった。立ち上がって、タリスの方を見た。


 その時、まるで機会を窺っていたかのように、チクチャンが現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ