12. 安らぎの光
それから数日間、彼等は船内を散策したり、船員達との会話を楽しんだりして過ごした。そうしてあの事故から五日目の午後、四人が昼食を終えた頃に客室の戸がノックされた。
「どなたですか」そうパウエルが尋ねた。
「デュプレだ。ちょっと相談したいことがあってな」
そう返答されたので彼は戸を開けた。
「相談って、何のことですか?」
デュプレに椅子を勧めながらリディアが言った。
「この前壊しちまった船の事なんだが、あの時だいぶ派手にぶつかったろ? それでもその時は、見た目はあれだけど、壊れたのはほとんど外装だけだと思ってたんだよ。ところがだな、昨日の夜になって、内燃機関のシリンダー、その辺りが丸ごと潰れてるって分かったんだ。で、とにかく、修理出来ないわけだからどうするかと思ってな」
「どこかの港で修理させてもらう、という事も不可能ですか?」
そうパウエルが言った。
「良いんだがな、ここから近くの島っていったら三日は掛かるぜ、それじゃあ遅すぎるだろう?」
「あの、もしかすると、私が修理できるかもしれません」
リディアが思い切ったように言った。するとデュプレは膝を打った。
「そうか、そうだったか。ここには竜の神子が居たんだったな。じゃあさっそく来てくれるか? ……いや、やっぱりここに持ってくるからちょっと待っててくれ。悪いな」
「いや、待ってください。確か……」
パウエルの言葉はデュプレに聞こえなかったようで、彼はそのまま出て行った。デュプレが壊れた部品を取りに行ってしまうと、タリスが、
「直すって言ってたけど、そんなことして大丈夫? リディア」
と、心配そうに話し掛けた。
「ええ、平気よ。だってここならもし疲れたとしても休めるし、みんなもいるしね」
「ですが、あまり無理をしなくとも何とかなりますよ。たぶん。例えば彼等に神殿まで送ってもらうとか」
「そんなに迷惑を掛けるわけにはいかないじゃない。ただでさえここまでしてもらってるのに」
はっきりと、そして元気よくリディアが言った。
「フェーだっているからね! もしもの時はフェーが助けるよ」
その言葉を聞いて、リディアは妖精の頭を撫でた。
「ありがとう、フェー。でも大丈夫よ」
デュプレが戻って来た。手には大きな荷物を抱えている。
「待たせたな。これがその部品だ」
そう言うと、彼は手に持った機械を机に置いた。
「ふむ。かなり大きいですね」
「これでもほんの欠片だがな」
リディアは、さっそく修理しようとペンダントを手に取った。だが、すぐにまたそれを置き、元がどうなっていたのか分からないと直せない、と言った。
それを聞くとデュプレは思い出したように、
「そうだろうと思って図面も取って来たんだ。えーと……」
そう呟きながら設計図を取り出した。デュプレから紙を受け取ったリディアは、再びペンダントを持ち、その力を開放した。
解き放たれた力を、目的に沿うよう導いていく。すると、ペンダントが光り輝いた。リディアが精神を集中させるにつれて、その光が強くなっていく。そして、光が机の上の機械に移ったかと思うと、図面に描かれた通りの物がそこにあった。
「こいつはすげえな」
デュプレが感嘆の声を上げた。しかしリディアはその言葉を聞く余裕もなく、その場で倒れてしまった。
その様子を見てデュプレが、
「おい、大丈夫か」と叫んだ。
「やはり……。彼女は疲れたのです。とにかくベッドへ運びましょう」
パウエルの指示の下、リディアをベッドの上に寝かせた」
「まさか、こんなに大変なことだとは。どうする? 医務室に連れていくか?」
そうデュプレが言った。タリスは首を振った。
「いや、大丈夫です。今までもこんな時何もできなかったから……。今度も回復するのを待つしかないと思います」
それを聞くと、デュプレは「そうか」と呟き、それから申し訳なさそうに、「まあ、何かあったら甲板に来てくれ」と言って、自分の仕事に戻って行った。
デュプレが部屋を出てからしばらくの間、タリスも、パウエルも、リディアの様子をじっと眺めていた。しかし、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。
やがて彼等はそれぞれ何事かをし始め、いつもの生活に戻っていった。それでも、外見上は何かをしながらも、今まで通り次の日には目覚めるだろうことを知ってはいても、タリスは、リディアの事が心配でどうしようもなかった。それだけ衰弱して見えたのだ。
そうして、不安の中で日が暮れ、皆が眠りに着いた頃、フェーだけはまだ起きていた。
誰も見ていない中で、妖精は何かに導かれるようにしてゆっくりと、だが確実にリディアの下へと飛んで行った。そして、彼女の胸元まで辿り着くと、そこで止まった。
浮遊したままのフェーが薄く光りだし、妖精は光の球に包まれた。その球からリディアの下へと光子が降りていく。光子は彼女の体を、精神を癒していった。




