11. 航海 海の男
次の目的地が決まったタリス達であるが、水の神殿へ行くには船を使わねばならず、以前自分たちの船を繫留した場所まで戻る必要があった。
そのため、彼等は前と同じ道を逆向きに辿って行ったが、一度来た道であるからか素早く、そして楽に進むことが出来た。彼等は、以前とは比べ物にならない程のスピードで、船のある場所へと帰り着いた。
前に上陸した所まで来た四人は、船を繫留するために使っていた縄を解き、それから一人ずつ順に乗り込んだ。そして、皆が揃ってから地図を広げ、水の神殿までの航路を確認した。
パウエルはかなり長い間地図を睨んでいた。その様子を見て、
「どうしたんですか」とタリスが尋ねた。
「いえ、ちょっと。……やはり、水の神殿まで真っ直ぐに向かうのはやめにしませんか?」
そうパウエルが言った。
「どこかに寄り道するってことですか?」
「そうではなく……ここの島を避け、この辺りをぐるりと回って行こうということです」
パウエルは地図を指でなぞった。
「どうして? 速いほうが良いじゃない」とリディア。
「つまり、そうですね。この辺は潮の流れが速いので、避けるのが無難だろうと」
「こんな大きな船でも潮が速いと駄目なんですか?」
タリスが言った。
「まあ、念のためにですから。絶対にというわけでは無いですけど」
タリスは真っ直ぐに行きたいと思っていたが、そう言われると、多少遠回りでも安全なほうが良いような気になって来た。
そこで彼は、「じゃあ、パウエルさんがそう言うなら」と、消極的ではあるがパウエルの意見に賛成した。リディアもフェーもそれに従った。
自分が言ったことが士気を下げてしまったと感じたのだろう。パウエルは、
「遠回りしたとしても、水の神殿には二十日程で着くでしょうから、頑張りましょう!」
そう言って皆を鼓舞した。
しかし、物事はなかなか予定通りには運ばないものだ。
四人が船で出発してから六日目のこと、この日は激しく雨が降っており視界が悪かった。そのため、ゆっくりと近づいて来る巨大な船に誰も気が付かなかった。
そのことは向こうも同じらしく、タリス達の乗っている船に衝突するまで、相手は速度を落とさなかった。そして、船と船とがぶつかり合う激しい音がして、初めて互いの存在を知ったのだ。
突然の轟音に驚いた四人は急いで甲板に出た。すると、自分達のより遥かに巨大な船が、外板にめり込んでいる事が分かった。ぶつかった時の衝撃により、船の側面に張られた外板は無残にも剥がれ落ちている。そんな光景を目の当たりにして、皆茫然としてしまった。
そんな彼等に、向こうの船から話し掛けて来る声が聞こえた。
「すまねえ、こんな事になっちまって。悪いがこっちに来てくれないか?」
四人は、他にどうしようも無かったので、相手の指示に従い船を移った。
巨大な船の船首まで来ると、そこには二人の男がいた。一方は筋骨逞しい大男で、もう一人の方は、一般に比べれば筋肉はあるのだが、彼とは比較にならず、二人並ぶと小柄に見える。
タリス達がこちらに来るのを見ると大男の方が、
「すまねえな、わざわざ来させて。俺の名前はデュプレ。そんでもってこいつはハマーってんだ」と言った。
四人もそれぞれ自分の名を述べた。タリス、リディア、パウエル、フェーである。
各々の名前を聞き終わると、デュプレが、
「ところで、おたくの船なんだが、修理するのには十五日程掛かっちまう。それでだな、修理が終わるまでこの船に泊まるってんでどうだい?」と言った。
それを聞いてハマーが、
「すみません、皆さん。船長は悪い人ではないんですけど、言葉遣いが荒々しくって」と、言った。
「それはとてもありがたいですが、修理するとなれば何処かに寄港しなければなりませんね。この辺りで港と言うと……」
そうパウエルが言って地図を開こうとした。
しかしデュプレはそれを止めた。
「いや、停める必要は無いぜ。なんせこの船は見ての通りでかいから、あの程度の大きさの船なら地下ドックに収容出来ちまうんだ」
「船長、ですから言葉遣いが。こちらが船を壊しておきながら、『あの程度』は無いでしょう」
そうハマーが言うとパウエルは、
「いえ、こちらも不注意でしたから」と言った。
しかし、デュプレは二人の会話を聞いていないかのように話を続けた。
「まあ、どうしてもって言うなら、セルギア辺りに停めても良いがな」
「セルギアですって? とんでもない! どうしてあそこに」
そうパウエルが叫んだ。デュプレは彼の驚きように戸惑う。
「おいおい、冗談だよ。そうだ! うちの船の名前はシェルンっていうんだがな、セルギアなんかよりずっと豪華なキャビンだぜ」
「まあ、船長。……すみませんね。船室に案内しますから、付いてきてください」
そうハマーが言い、四人はハマーの案内に従って進んだ。
四人が案内された船室は、広々としていて快適そうな空間であり、その上室内にはベッドが六台も備え付けてあった。
また、革張りのソファーや木製の机等もあって、船の内部とは思えない程贅沢なつくりになっている。
タリス達と部屋の前まで来たハマーは、何故あんな所を航海していたのかと尋ねた。神殿を目指しているとリディアが答えると彼はすぐに、タリス達が竜の騎士の一行であったということに気が付いた。
ハマーは、少し考えてから四人に対して、船を修理している間に我々がその神殿まで送って行こう、と提案した。もちろんその提案を受け入れない者がいる筈も無い。皆がその配慮にお礼を言うと、ハマーは四人に向かって、
「では、私はこのことを船長に告げてきますからここで。あ、それと、船内では自由に行動してもらって構いませんよ」
と言い、キャビンを後にした。
この日、タリス達は船室から一歩も出なかった。彼等は疲れていたし、それに、今日は実に多くの事が起こった。
そのため、四人は一日の残りを、今日この日の出来事を整理するために使うことにした。
彼等は疲れた頭で考え、話し合った。そうして出た結論は、ただこの船の上で時が過ぎるのを待つしかない、というものだった。
今の状況を整理し、皆で結論を共有したことで、自らの中の焦りや不安と言ったものを幾分か解消することが出来た。
ところで、夕飯はと言えば、初め四人はいつもの様に缶詰で済ませようとしたのだが、夕方になると豪勢な食事が運ばれてきた。久しぶりの豪華な食事に満足した彼等は幸せな気持ちになった。
そしてその時になってようやく、今朝の事故は実は自分達にとって幸運な出来事だったのだと気が付いた。もしあの事故が無ければ、こうして長旅の疲れを癒すことも出来なかっただろう。
しかも、ハマーの心遣いにより、水の神殿に着くのが遅れるという心配も無くなったのである。




