表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/26

8. からかいのチクチャン

 神殿の内部は一本道ではあるものの、四つの階層に分かれていて、その上建物自体が巨大なため、祭壇に辿り着くまでに数時間も費やすことになった。


 タリス達は、祭壇に向かう途中一人の警備員とも会わなかった。このことは神殿の警備が既に必要なくなったことを示している。


 彼等は歩きながら、竜の神子と騎士についての話をした。


 神殿までの長い道のりでパウエルと打ち解けた二人は、自らの生活を彼に知ってもらいたいと思ったし、それに、共に旅をするのなら知らせる必要があるとも感じていた。


 時間こそかかったものの楽しく、実のある話をしながら竜の祭壇まで来た。

 最上階に入ると、祭壇を見たパウエルが、


「これは酷い。竜の彫刻が粉々に壊されている」と呟いた。


 彼が言った通り、祭壇の後ろに飾られている彫刻は粉々に破壊されていた。


 タリスは祭壇の周囲を調べたりはせず、すぐ封印に取り掛かった。封印をするための手順は簡単なもので、タリスがただ聖剣に祈りを捧げるだけである。


 だが、何度祈ろうとも封印はおろか、ペンダントから力が取り出される気配もなかった。


 その様子を見てパウエルが、「どうかしましたか」と聞いた。


「いや、何故だか分からないのだけど、封印が出来ないんです」


「ふむ。でしたら、リディアにペンダントのエネルギーを開放してもらって、それからもう一度祈ってみたらどうです?

 もしかすると、エネルギーをうまく取り出せてないのかもしれませんし」 


 そうパウエルが言ったので、二人はその通りやってみた。

 

 しかし結果は同じ、取り出されたエネルギーは、どこにも向かうことなく漂い続けた。これでタリスの祈りに聖剣が反応していないことが明白になったのだ。


 だが、彼はそれを認めたくなかった。もしそうだとしたら僕は一体何のために努力してきたのだろう。


 いてもたってもいられず、タリスはもう一度試そうとして剣を持ち上げた。


 その時、背後から声が聞こえた。


「何度やったって無駄だよ」


 その声を聞いてタリスが振り向くと、そこには、赤い服を着た少女が立っていた。


「フェー、見たよ! あの人がそこから出てきたのを!」そう言って妖精は虚空を指さした。


「つまり、何もない空間から突然現れたということですか?」


 そうパウエルが聞いた。


 「うん!」とフェー。


 少女は、不気味に笑う。


「あのさ、タリス。あんたは迷ってるんでしょ? このまま封印しても良いのかってさ。そのことを剣も見抜いてるんだよ」


「見抜いている? 僕は迷ってなんかいない」


 そうタリスが叫び、リディアが、「タリスは竜の騎士なのよ」と続けた。


「ふん。どっちにしたって封印はできてないじゃないか。十年前はたまたま持ち上げられたってだけかもよ」


 それを聞くとタリスは考え込んでしまった。

 その様子を見たパウエルは、


「タリス、そう落ち込むことなどありません。あなたは剣を求めてテシトゥーラスまで来たのです。

 それが出来たのは、聖剣があなたにそこの光景を見せたからでしょう。騎士でない人間が、どうして聖剣の在り処を知ることが出来たのですか、ねえ。


 それに、あなた。その真っ赤な服からして、神殿を襲った者の一味でしょう? そんな人の言うことを信じられるわけ無いんじゃないですか?」


 そう言ってタリスを励ました。


「あなた、何者なの? どうして突然ここに? そうよ! 何もない所からどうやって出てきたの!」とリディア。


「私はね、チクチャンっていうんだ。それで、あんたは何ていうんだい?」


「私? どうして私の名前なんか……」


 そう呟いてからリディアは質問に答えた。それを聞いて、チクチャンはにやりと笑った。


「リディア、ね。そして、あんたが竜の神子、か……」


「あなたはどうして出てこられたのですか?」


 パウエルが話に割り込んだ。


「どうやって出て来たかって言われてもね。私は意識だけで存在しているようなもんだからさ。いつでも、好きな時に、形をとって現われることが出来るんだよ」


 パウエルは腕を組み、そして、「意識だけとは?」と聞いた。


「お前達はさ、意識と、肉体とを持ってるだろ? だけど、私には肉体が欠けてて、魂だけでここに在るんだ」


「……すると、今あなたを捕らえようとしても無駄なのですね」


 と、パウエルが言った。チクチャンが魂だけの存在であるのなら、物理的な拘束などたやすく抜けてしまうだろう、そう考えたのだと小声で続けた。


「ふん。まあ、私の言う事を信じるんならそうだよ。でも、『そんな人の言うことを信じられる分け無い』、でしょ?」


「それは時と場合によりますよ」


 チクチャンの表情が少し和らいだ。


「そうかい? まあどっちでも良いけどね。私はあんた達をからかいに来ただけだからさ。もう帰るよ」


 それから彼女は地面を蹴り、跳んだかと思うと、空中に吸い込まれるようにして消えた。


 それを見たフェーは、「行っちゃったね」と呟いた。


 チクチャンが消えてしまうと、タリスはそこに取り残されたような気分になった。


 リディアはそんな彼の様子を見て、

「タリス、大丈夫?」と話し掛けた。


 それに対してタリスは、「平気だよ」と答え、それから皆に「戻ろう」と言った。


 それは、神殿の外に行こうという意味だったが、外に出てどこへ行けばいいのだろうとぼんやり考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ