第6章:エリツィンへの道とゴルバチョフの陥落
16:権力の嵐(1991年8月)
場所:サンクトペテルブルク市庁舎とKGBの秘密事務所
1991年8月、ソ連保守派によるクーデター未遂事件(8月クーデター)が発生し、ゴルバチョフ大統領が軟禁される。歴史が激しく動くこの瞬間、プーチンは市庁舎に身を置きながらも、KGBのネットワークを通じて情報の収集に奔走していた。
彼は、KGB時代の上層部やオールドガードがクーデター側につく中、エリツィンという新しい権力の流れに賭けていた。
プーチン(コモロフに):「コモロフ、ゴルバチョフの『行動』と『発言』の全てを掴め。特に、彼が軟禁されているクリミアの別荘での『真の意図』だ。クーデターを沈静化させるには、『時限爆弾』が必要だ。」
プーチンが求めていたのは、ゴルバチョフの政治生命を完全に絶ち、エリツィンへの権力移行を決定づける「決定的な情報」だった。
17:プリコジンの「盗聴と給仕」
プーチンの指令は、コモロフを通じて、裏の掃除人であるプリコジンに届く。
コモロフ:「ジェーニャ、今回は『歴史のメニュー』だ。クリミアにあるゴルバチョフの別荘に、『給仕』として潜り込め。そして、彼の全ての会話、特に『誰が彼を裏切ったか』という内部情報と、『西側との連絡』に関する情報を持ち帰れ。」
プリコジンは、完璧な給仕として別荘に潜入した。
給仕の裏の顔: 彼は料理を運び、ワインを注ぐ優雅な姿の裏で、極小の盗聴器を設置し、ゴミ箱の中の破られたメモを回収し、ゴルバチョフの妻や側近の顔色を観察した。
情報の核心: プリコジンが掴んだのは、ゴルバチョフがクーデター鎮圧後もソ連の枠組みを維持しようとしているという情報、そして彼が西側諸国に対し「協力を求めていた」ことを示す決定的な証拠だった。
18:エリツィンへの献上
プリコジンが持ち帰った情報は、プーチンに手渡された。
プーチンは、この情報を「時限爆弾」として利用した。ゴルバチョフが西側に援助を求めていたという事実は、ソ連の崩壊を望むエリツィン陣営にとって、ゴルバチョフを「裏切り者」として断罪する決定的な武器となった。
プーチン(エリツィン陣営に、冷徹な声で):「ゴルバチョフは、まだ『祖国』ではなく『帝国』に固執している。そして彼は、我々の『敵』に助けを求めた。彼を排除すれば、新しいロシアの時代が来る。」
プーチンのこの工作が、エリツィンの権力掌握を後押しし、ソ連の終焉を決定的なものにした。
19:忠誠の証明
クーデターが失敗に終わり、エリツィンの権力が確定した後、プーチンはプリコジンを呼んだ。
プーチン:「ジェーニャ。お前のおかげで、歴史の針を進めることができた。お前は『給仕』として、歴史上の『最も重要な料理』を提供してくれた。」
この功績により、プリコジンはプーチンの「同志」として、エリツィン政権下でプーチンが権力を固めるための最も重要な「影の道具」としての地位を確立した。彼の初期の犯罪の記録は完全に抹消され、代わりに「国家への功績」が刻まれたのだった。




