第3章:ハンバーガー屋と影の厨房
6:アメリカの味、ロシアの影
サンクトペテルブルクの繁華街 プリコのハンバーガー屋「ファーストバイト」
コモロフによる「保釈」後、プリコジンはKGB/FSBの支援を受け、街の一角で小さなハンバーガー屋を始めた。店名は「ファーストバイト(最初の一口)」。
1990年代、アメリカのファストフードは西側の自由と豊かさの象徴であり、サンクトペテルブルクに進出してきたCIAのエージェントや西側のスパイ、そして彼らと接触するロシア人にとって、最も警戒心の緩む「馴染みやすい場所」だった。
プリコジンの店は、その「馴染みやすさ」を利用した情報収集のための「餌場」として選ばれた。
彼は、かつての強盗の「鋭い観察力」と「現場での機転」を、ハンバーガー屋の経営に転用した。
客の注文の仕方、会話のトーン、待ち合わせの習慣から、その人物が「単なる観光客か、それとも情報を探る者か」を見抜いた。
ハンバーガーに隠した小さな盗聴器。ポテトフライの油の匂いに紛れた化学物質の痕跡。厨房は、彼の最初の「情報収集のための厨房」となった。
プリコジンは、CIAのエージェントや彼らと接触するロシアの裏切り者について、次々と「誰が、いつ、誰と、何を」話したかという正確な「レシピ」を看守コモロフに報告した。
7:看守の満足と地位の確立
プリコジンの活躍は、コモロフにとって予想以上の成果だった。彼がもたらす情報は、市庁舎で働くプーチン氏の仕事(西側資本との交渉、情報機関との駆け引き)において、非常に貴重なものだった。
コモロフ:「プリゴジン。お前の『料理』は、正規の諜報員が数ヶ月かけても得られない『鮮度』と『深み』がある。やはり、お前は『裏の仕事』の天才だ。」
コモロフは、プリコジンの成功をKGB/FSBの上層部に報告。プリコジンは、「KGBの末端の非公然エージェント」として正式な地位を得た。彼の身分は、「恩赦を受けた元囚人」から、「国家のための影の道具」へと変化した。
8:より大きな舞台への進出
しかし、プリコジンは満足しなかった。彼は、「ハンバーガー屋の喧騒」では、プーチン氏のような真の権力者とは近づけないことを知っていた。
プリコジン:「コモロフ殿。ハンバーガーは、せいぜい『兵隊』の腹を満たすだけです。『将軍』の情報を得るには、『将軍が座るテーブル』が必要です。」
プリコジンは、自身が持つ情報網とコモロフからのサポート資金、そしてKGB/FSBの「公然の秘密」を背景に、高級レストランの経営に乗り出すことを決意する。
ハンバーガー屋の経験は、最高の情報収集術と資金を提供した。今度は、その資金と技術を使い、プーチン氏の近く、「権力の中枢」へと登り詰める時だった。
彼の次の舞台は、プーチン氏と要人が会食する高級レストラン「ニュー・アイランド」へと移る。




