第22章:孤立と背信(終わりの始まり)
69:魂の切り売り(国防省との契約命令)
場所:ワグネル後方キャンプ
バフムートを去るワグネルに対し、モスクワの国防省は非情な最後通牒を突きつけました。「全ての非正規部隊は、7月1日までに国防省と直接契約を結べ」という命令です。
それは、プリコジンから「ワグネル」という名の家族を奪い、彼を単なる民間人に戻すことを意味していました。
プリコジン(部下たちを前に、怒りに声を震わせて): 「奴らは、お前たちが流した血を、役人のハンコ一つで買い叩こうとしている。ショイグは、俺たちの誇りを国防省の腐った机の引き出しに仕舞い込むつもりだ。ワグネルは、誰の軍隊でもない。ロシアの魂そのものだ!」
彼はこの命令を真っ向から拒絶しましたが、それは同時に「国家への反逆」のレッテルを貼られるリスクを冒すことでもありました。
70:戦勝記念日の冷や水
場所:5月9日 赤の広場(テレビ画面越しの対峙)
ロシアがソ連時代の対独戦勝記念日に沸き、着飾った将軍たちがパレードを行う中、プリコジンは泥にまみれた前線から、SNSを通じて冷徹な一言を放ちました。
プリコジン(動画配信): 「我々の祖父たちが勝利したのは、命を懸けて戦ったからだ。だが今のパレードはどうだ? 我々はまだ、この戦争で1ミリも『自分たちの勝利』を手にしていない。 過去の栄光を食いつぶし、今の無能を隠しているだけだ。」
この発言は、プーチンが最も重んじる「国家の聖域」に泥を塗る行為でした。クレムリンの沈黙は、もはや「容認」ではなく、「処刑までの猶予」へと変わっていきました。
71:失われた「主人の信頼」
かつては「料理人」としてプーチンの耳元で囁くことができたプリコジンも、今や電話一本通じない壁を感じていました。プーチンにとって、プリコジンは「便利な道具」から、「システムの安定を乱す猛毒」へと変わっていたのです。
プリコジン(独白): 「ウラジーミル……あんたも変わったな。真実を語る者より、耳に心地よい嘘をつく無能な家来を選んだのか。あんたが育てたこの『怪物』を、今さら檻に入れられると思っているのか?」
72:追い詰められた獣の決断
食料、弾薬、そして法的な地位。あらゆるものがプリコジンの周りから消えていきました。背後からは正規軍が銃口を向け、前方にはウクライナの反転攻勢が迫る。
プリコジンは、自分が「捨て駒」にされたことを完全に悟りました。しかし、彼はただ消え去るような男ではありませんでした。
「どうせ死ぬなら、この腐ったキッチンごとひっくり返してやる。」
彼の中に、狂気にも似た「正義」が芽生えます。それは、自分を裏切ったショイグとゲラシモフを引きずり下ろすための、「最後の、そして最大の料理」の準備でした。




