第2章:看守のテストと血の密約
3:鉄格子の内の再会
サンクトペテルブルクの拘置所 独房
強盗罪で捕らえられ、独房に放り込まれたプリコジンを、一人の看守が訪れる。
看守、セルゲイ・コモロフ。彼は、ソ連時代にはKGBの末端で、反体制派や「信用できない分子」をシベリア送りにするか、「再教育」するかの選別を担っていた冷徹な男だった。ソ連崩壊後、彼は表向きは看守だが、その実態はKGBの「オールドガード(老兵)」とFSBを繋ぐ、影の連絡係だった。
コモロフは、プリコジンの調書を冷たい目で一瞥する。
「強盗、暴行。体力はある。しかし、頭が良すぎるな、プリゴジン。お前のような『使える獣』は、鉄格子の中で腐らせるには惜しい。」
コモロフは、かつてのシベリア送りの選別と同様、プリコジンの「将来性」を測っていた。
4:難解な世間話と最初のミッション
コモロフは、独房の中で、刑務所の規則とはかけ離れた「世間話」を始めた。
「最近、この街はひどく『汚染』されている。特に、ネフスキー大通りにある、やたらと派手なバーだ。そこのオーナーは『遠い国の鳥』を好み、ロシアの機密をさえずらせて金を稼いでいるらしい。まるで、『ソ連の歴史書をサンドイッチに挟んで食う』ような真似だ。許せん。」
コモロフは、具体的な名前も、命令の言葉も使わない。だが、その言葉は「KGBの専門用語」と「ロシアの誇り」に満ちていた。
プリコジンはその会話から次のように考えた。 (ネフスキー大通りの派手なバー。遠い国の鳥=CIAのエージェント。ソ連の歴史書を食う=機密情報の流出。看守が求めるのは、その男の「沈黙」と、裏にいる勢力(背景情報)だ。)
プリコジンは、看守の「雑談」の裏に隠された「極秘の命令」を瞬時に把握した。
プリコジン:「看守殿。その『鳥』の好む『料理』は、いつ頃用意すればよろしいでしょうか?」
コモロフは微かに笑った。「頭の回転が速い。やはり、使える」。
コモロフ:「2週間で、その『料理』のレシピを見つけてきてほしい。そうすれば、お前の『借金』は、一旦チャラになるだろう。」
5:3日後の「レシピ」
プリコジンは、コモロフの指示通りに「保釈」され、監視下で行動を開始した。
3日後。ネフスキー大通りのバーのオーナーは、謎の事故で重傷を負い、永遠に沈黙した。
プリコジンは、コモロフに指定された秘密の場所で接触した。
プリコジン:「『鳥』はもう飛びません。そして、その『鳥籠』の背後にいたのは、『アメリカの外交官』を装った、CIAのベテラン工作員でした。彼は、このバーを使って、サンクトペテルブルク市庁舎のある人物に関する情報を集めようとしていた。」
プリコジンは、ターゲットを始末しただけでなく、その背後の「誰がプーチン(市庁舎の人物)を狙っていたか」という核心的な情報までをも見抜いてきた。
コモロフの冷徹な顔に、初めて驚きが走った。
コモロフ:「……3日。しかも、背景情報まで。お前は『料理人』として、最高だ。」
この成功は、プリコジンがプーチンという「主人」の前に引き出され、「料理人」としてのキャリアと、KGB/FSBとの血の密約が始まる瞬間だった。




