第18章:懲罰部隊の復活と肉の波状攻撃
55:ソ連戦術の復活と人間レーダー
プリコジンがバフムートで実行したのは、ソ連時代の懲罰部隊戦術の現代版でした。これは、「人命の消耗」を前提とした、非人道的ながらも戦術的な合理性を持つ方法でした。
「肉の波状攻撃(Meat Assaults)」: 囚人兵たちは、わずかな訓練と粗末な装備で最前線に投入されました。彼らの最初の波は、ウクライナ軍の防御陣地の火力を吸収し、地雷原を「肉壁」として踏み破るという役割を担いました。
「人間レーダー」: 彼らの前進は、ウクライナ軍の**射線と隠れた陣地を特定するための「人間レーダー」となりました。後方の精鋭ワグネル部隊は、囚人兵がどこで倒れたか、どこから銃撃を受けたかという情報をもとに、正確な反撃と次の突破口を特定しました。
この凄惨な戦術は、ワグネルの囚人兵に多大な犠牲を強いつつも、他のどのロシア正規軍部隊も成し遂げられなかった、バフムートの強固な陣地への道を確実に切り開いていきました。
56:ごろつきの心掌握術
プリコジンは、彼らを「使い捨ての駒」として扱いながらも、彼らの「心」を掴むことに長けていました。彼は、正規軍の将校とは異なり、元囚人という共通点から、彼らに直接語りかけ、連帯感を植え付けました。
プリコジン(刑務所でのリクルート時): 「お前たちは、社会から見捨てられた。だが、ワグネルでは違う。お前たちの流す血は、自由という『金』に変わる。ショイグの正規兵どもは、お前たちを見下すだろうが、我々は違う。戦果を上げれば、私は必ず報いる!」
プリコジンは、部下の「手柄」には驚くほど良く報いました。あるときは、自費を投入して高額な報酬を与え、あるときは、正規軍の兵站を無視し、横流しや脅迫によって弾薬や装備を優先的にワグネルに回しました。
57:戦果の独占と権力の増大
ワグネルの損耗は凄まじいものでしたが、それ以上に戦果は圧倒的でした。正規軍が数ヶ月かけても進めなかった距離を、ワグネルは数週間で奪取し、バフムートの市街戦で勝利を重ねていきました。
無視できない存在へ: ワグネルの戦果は、プーチンの目には「ロシア正規軍の無能さ」と「プリコジンの非凡な能力」を際立たせるものとして映りました。
権力の増大: プリコジンは、「弾薬よこせ!」と公然とショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を罵倒し、その動画はロシア国内の反体制派や正規軍の不満を持つ兵士の間で熱狂的に支持されました。
ワグネルは、もはや「影の部隊」ではなく、ロシアの軍事・政治の舞台で誰も無視できない、巨大な独立した武力へと変貌したのでした。




