第16章:後退と要塞(バフムートへの序曲)
48:キーウからの撤退と現実の直視
場所:クレムリン
正規軍の多大な犠牲と、兵站の限界に直面したプーチンは、極めて冷徹な状況判断を下し、キーウからの撤退を決意します。これは、初期の目標であった「政権転覆」の失敗を公に認めることでした。
プーチン(記者会見で、穏やかながら冷たい声で):「特殊作戦の目的は達成されつつある。キーウ周辺の軍を再編成し、ドンバスの『真の解放』に戦力を集中する。」
彼のこの判断は、「戦略的後退」を「目的の変更」として国民に提示する、見事な情報操作でした。
49:マリウポリの破壊と「ロシアの伝統」
キーウからの後退とは対照的に、ウクライナ南東部の重要拠点マリウポリでは、ロシア軍は徹底的な焦土作戦を展開し、街を破壊し尽くすことで占領しました。
このマリウポリの戦いは、プリコジンがプーチンに示唆した「ロシアの伝統」そのものでした。
「交渉や人権に配慮する西側のやり方ではなく、圧倒的な破壊と武力による支配こそが、ロシアの伝統的な解決策である」という証明でした。
プーチンは、この残忍ながらも「結果を出した」占領戦を見て、「影の手段」の有効性を改めて確信します。
50:スロビキン・ラインの構築
正規軍の指揮系統は混乱していましたが、プーチンの信頼厚いスロビキン将軍は、この後退の混乱の中で、防衛体制の再構築という重要な役割を担います。
スロビキンは、前線から撤退した部隊を後方へ配置し、広大な占領地を守るための堅固な塹壕と要塞の複合体の構築を指示しました。これが後に「スロビキン・ライン」と呼ばれる強固な防衛線です。
スロビキンの思考: (攻撃の失敗は認めざるを得ない。しかし、ロシアの版図となった土地を絶対に手放さないためには、消耗戦に耐えうる要塞が必要だ。正規軍は、守りの戦いならできる。)
スロビキンは、現実主義者として、正規軍の限界を認めつつ、ロシアに有利な停戦条件を引き出すための「防衛の盾」を構築し始めます。
51:東部の行き詰まりとプリコジンの突破口
一方、戦争の「主戦場」となったドンバス地方では、正規軍による戦闘は膠着状態に陥っていました。都市の奪取は進まず、ロシア兵の犠牲は増大する一方でした。
プリコジンは、この「東部の行き詰まり」こそが、自身の「影の力」を再び証明する絶好の突破口だと認識します。
プリコジン(自らに): 「ショイグとゲラシモフの無能な正規軍では、この鉄壁の防御は破れない。プーチンは、『結果』を求めている。私は、『血』と『力』によって、この戦線に『動き』をもたらす。これこそが、私の『料理』だ。」
彼は、東部戦線の中心であるバフムートに、ワグネルの全戦力と、自らの非人道的な戦術を投入することを決断します。それは、「血の契約」を背景に、彼自身の野心と正規軍への憎悪を爆発させる、凄惨な戦いの始まりとなるのでした。




