第12章:クリミアの影(2014年)
36:プーチンの決断と「ハイブリッド戦争」の幕開け
場所:クレムリン プーチンの地下執務室
2014年、ウクライナで親ロシア政権が倒れる事態が発生。プーチンにとって、これはNATOが自国の庭先にまで侵入してきたことを意味し、看過できないものでした。彼は、ロシアの威信と安全保障を守るため、クリミア半島の奪取を決断します。
プーチン(FSB長官とプリコジンに、地図を指し示しながら): 「クリミアは、我々の歴史と魂だ。これを西側の手に渡すことは、祖国への裏切りに等しい。我々は『戦争』ではなく、『歴史的な再統一』を行う。しかし、その裏では、一切の『雑音』を排除しなければならない。」
プーチンが求めたのは、ロシア軍の介入が国際的に非難される前に、「クリミア住民の自発的な意志」による併合という既成事実を作ること。これは、後の「ハイブリッド戦争」と呼ばれる手法の初期の実験場となりました。
37:FSBとの協調とプリコジンの暗躍
クリミア工作において、プリコジンはFSBの地域支部と密接に協調しました。FSBが「公式な」情報収集と政治的な根回しを行う一方、プリコジンの組織は「影の工作」を担いました。
暴力と取引: ワグネルの工作員たちは、「地元の自警団」を装ってクリミア半島に潜入。反ロシア派の活動家やウクライナ軍関係者に対し、脅迫、暴行、誘拐を秘密裏に行い、抵抗の芽を摘み取りました。
情報ドメインの支配: プリコジンのトロール工場は、クリミアのインターネット空間とSNSをプロパガンダで埋め尽くしました。「ロシアによる解放」「歴史的な再統一」といったメッセージを大量に拡散し、反ウクライナ世論を沸騰させました。
買収工作: 彼は、地元の政治家やメディア関係者を金と利権で次々と買収し、「併合を望む住民の意志」を演出するための完璧な舞台を作り上げました。
プリコジンの組織は、「誰が」ロシアを支持し、「誰が」反対しているかを瞬時に特定し、取引か、それとも暴力か、を冷徹に選択しました。
38:成功の果実とプーチンの威信
プリコジンの緻密かつ迅速な工作により、クリミアでの住民投票は圧倒的な「賛成」で可決され、ロシアへの併合が宣言されました。
国際的な非難は起こったものの、ロシアは「武力ではなく、住民の意志に基づいた」行動だと主張し、世界の既成事実として押し通しました。
プーチンの威信は、この成功により最高潮に達しました。彼は、ソ連崩壊で失われた「偉大なロシアの版図」を取り戻すことができるということを、国民と世界に示したのです。
そして、この成功は、プリコジンがプーチンの「影の道具」として、もはや不可欠な存在であることを証明しました。彼のワグネルは、「ハイブリッド戦争」という新しい戦争形態における、世界最先端の実行部隊となったのです。




