第3話 思うようにはならない
卒業パーティーの場で、国外追放を命じられたリリアナは、優雅な微笑みを浮かべ、静かに頭を下げた。
「承知いたしました、王子殿下。では、失礼致します」
「は?」
泣いて縋ると思っていたリリアナがあっさりと去っていくのを、アルフレッド王子はポカンとして見ていた。黒髪は好みではなかったが、透き通るような頬に儚げな微笑みは、美しいと心の隅で思った。
「やけに、あっさり引き下がるな。泣き顔を見られるのが嫌なのか?」
リリアナが背筋を伸ばして優雅に去っていく後ろ姿を眺めながら、アルフレッド王子はそんなことを考えていた。
「なんでしょう……。きどっちゃって……」
ボソリと、アルフレッドの隣でエマが呟いた。
「うん?」
アルフレッドがエマに聞き返すと、エマはハッとしてアルフレッドの腕に胸を押し付けた。
「アルフレッド様ぁ、睨まれちゃいましたぁ。エマ、怖かったですぅ」
「エマ、可哀想に。こんなに怯えて……。でも、恐れることはないよ。僕がついているからね」
アルフレッドは甘い表情でエマを見つめた。エマもうっとりとした表情でアルフレッドを見つめ返した。
周囲は冷めた様子で、その光景を眺めていた。
リリアナは、彼女の実家の商会を即座にエルマリアン王国からの撤退させることを決めた。
『何しろ、国外追放ですから、今後関わっっては、いけませんわよね!』
商会からエルマリアン王国に卸している魔水晶の供給をストップする。
リリアナとしては、学園卒業で魔道具の知識を十分に得たので、ヴェルディア王国に戻ったら、自ら魔道具の生産を始められると考えている。
困ることは何もない。むしろ、こんな王国に付き合う必要などないだろうと判断した。
さらに、パーティーにはヴェルディア王国の王子、リカルドが招かれていた。彼はリリアナの従兄妹で、母同士が姉妹だった。幼い頃からリリアナを妹のように可愛がっていたリカルドは、アルフレッド王子の振る舞いを聞いて激怒していた。
逆にアルフレッド王子が、リリアナと親しくしていたとしても、腹が立っていたであろうけれど……。
「これは侮辱だ!」
リカルドは中央のステージに近づいて、宣言した。
「ヴェルディアン王国の……?」
アルフレッドは、リカルドの胸に輝く装飾から、リカルドがヴェルディアン王国の王子であることを察した。なんなら、何度かパーティで挨拶をしたこともあったのだが、残念ながら名前は覚えていなかった。
不思議そうにゆっくりと首を傾げるアルフレッドを、リカルドは目を細めて見つめた。
「リリアナは我が国の誇りだぞ。冤罪で国外追放など、許せん!」
「え? 我が国、とは……?」
アルフレッドが聞き返したが、リカルドはそれを無視して声を張り上げた。
「ヴェルディア王国として抗議をする。ヴェルディア王国の貴族に対して、証拠も何も提示しない冤罪で、罪に問うなど、ヴェルディアに対しての侮辱と同等である!
魔水晶の輸出を即時停止する! エルマリアン王国との交易は、今日限りだ!」
「ええ!? ……?」
会場はパニックに陥った。卒業する学生達の親の貴族達は青ざめ、アルフレッド王子は呆然と立ち尽くした。
「え、何が起きているんだ?」




