8話・番外ストーリー「2人の実験」
水谷がユイとして転生して5年経ったある日のこと。
「サリーちゃん待ってー!」
ふと川の方を見ると、サリーと呼ばれた金髪ツインテールの女の子と、小さなバケツを持って追いかけている茶髪の女の子がいた。
サリーの手には何やら筒状のものを持っている。
「ハルナ!実験するわよ!」
ユイは「実験」という言葉を耳にした。
「実験……?まさか……」
ユイは近くの草むらに隠れて2人を観察する事にした。
ーー
「サリーちゃん、ほんとにできるかな?」
「当たり前でしょ、私たちが作ったんだからできるわよ!」
サリーとハルナは小さなバケツを川の水と泥を一緒に入れて混ぜた。
「ハルナ、上から少しずつ入れて」
「うん!」
ハルナは泥水を筒の上から、漏斗を使って入れようとしたが、ハルナは届かなかった。
「サリーちゃん……届かなかい……」
ハルナは少し涙を浮かべて、サリーを見た。
サリーはハルナの頭を撫でながら、漏斗に向かって少しづつ泥水を入れていった。
「ハルナ、泣かないの」
「ひぐ……」
泥水を全て入れ終わり、下にコップを置くが、なかなか水が落ちてこない。サリーは10分ほど待ったかコップ4分の1程度しかたまらない。
「全然たまらないじゃない!待つの飽きた!ハルナ、川で遊ぶわよ!」
ついにしびれを切らしたサリーは、ハルナを連れて、川に飛び込んだ。
「サリーちゃん、服濡れちゃうよ〜」
「別にいいじゃない!あ、魚いるわよ!捕まえて食べるわよ!」
魚を見つけたサリーは、魚に向いて飛び込んで行った。
「ハルナ、みてみて!大きい魚取れたわよ!」
サリーは自分の身長の半分ほどある魚を取って、ハルナのいる浅瀬まで持ってきた。
「サリーちゃん、すごい……私だって!!」
ハルナはサリーに続いて飛び込んだが、ハルナにとってはあまりに深すぎたため溺れそうになった。
「さ、サリーちゃん……たす……たすけて!!」
「ハルナ!」
サリーは慌てて飛び込んでハルナの救出しようとしたが、ハルナを抱き抱えた後、ハルナが暴れてサリーも溺れそうになった。
「大丈夫!」
ユイは流石に溺れている女の子を見捨てる訳には行かないので、草むらから川に飛び込んだ。
「げほ!げほ!」
「うぇーん、怖かったよぉ〜」
ユイは、2人を助け出すと、サリーは水を飲んだのだろう、咳き込んでおり、一方ハルナは泣いていた。
「二人で川遊びは危ないよ」
ユイは呼吸を整えてから、2人を叱った。すると2人は涙を浮かべた。
「ご、ごめんなさい……ひぐ……」
「うぇーん、ごめんなざいー」
サリーは、涙を堪えていたが、耐えられなかったのかポロポロと涙を流しており、ハルナは全力で泣いていた。
ーー
「そういえば2人は何してたの?」
泣き止んだ2人にユイは質問をした。するとサリーは自信満々に答えた。
「ろ過装置作ってたのよ!」
「ろ過装置……」
ユイはろ過装置と聞いて驚いた。
「ろ過装置はね、泥水を飲める水にするもの……」
「……科学実験か?」
ハルナの説明中に「科学実験」の単語を出したことにより、2人は驚きながらこちらを見た。
「貴方まさか転生した人?」
サリーの質問にユイは驚きを隠せなかった。
「あぁ、俺は転生前では量子物理学の科学者だったからな」
「……!?」「え!?」
2人はユイの説明に絶句した。
「もしかして水谷せんせいですか?」
ハルナがユイに向かって聞いた。生前俺のことを水谷先生と呼ぶのは遥くんだけだ。黒谷とクソババアは「水谷!(黒谷)」「水ジジイ!(クソババア)」と言われてたからだ。
「遥くんなのか!?」
「はい遥です!この世界ではハルナです!」
「水ジジイ……私はサリーって言うのよ」
2人は名乗るとユイは少し安心した。転生してから俺だけ転生したのかと思っていたからだ。
「ちなみに私が4歳、ハルナは3歳よ」
うん、年下!?
サリーはハルナの頭を撫でながら言った。
ユイは感動の再開で涙が潤んでいた所に、まさかの年下だという事に、衝撃を受けた。
しかし、俺、クソババア、遥くんも転生している。つまりあいつも……
「サリー、黒谷も転生してると思うか?」
「……有り得るわね……最近西町あたりで、魔法を科学って言ってる女のコがいるらしいわよ」
「確定で黒谷……だろうな」
「間違いないわね……」
すると、2人が話している途中で、ハルナがろ過装置の方へ走っていく。
「サリーちゃん!お水できてるよ〜!」
ユイとサリーは、ろ過装置の前に行くと、綺麗な水が出来上がっていた。だが、ハルナはそれをいっきに飲み始めた。
「ちょ、ハルナ!煮沸消毒しないとお腹壊すわよ!」
「遥くん、お腹壊すよ!」
2人の大声にビビったハルナは涙を浮かべてしまった。
「いやー!おなかいたくなるのいやー!!」
ハルナはまた、全力で泣いてしまった。