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デートのお誘い


 空が高くなり紅葉も終わりに近づく季節。

 街を吹き抜ける風が日に日に冷たくなってくる。


 秋の収穫を貯蔵するまでの作業が終わり、ウィンターハーン領でも収穫祭の準備が始まった。

 ここ数年は翌年の展望も暗い中で陽気に騒ぐ雰囲気ではなく、慎ましく労働を労う催しとなっている。不作の状況に応じて領主家から穀物を安く支援するので喜ばしい日ではあるものの、支援の少ない地域の鬱憤を積もらせてしまう日でもあった。

 今秋は数年ぶりに収穫が増えた地域があり、先日各地域からの報告を集計したところ領全体では微増という結果だった。特に領都付近の畑は随分と良くなった。祈祷の影響の大きさに、アルマが一番驚いている。

 今後は良くなっていくという期待が方々から感じられる。今年の収穫祭は数年ぶりに楽しい催しになりそうで、城内も浮き足立っていた。


 アルマは祈祷に明け暮れる日々を送っている。

 以前は中央神殿で習慣づけていた休息日を同じようにとっていたが、それをやめて一日の時間も伸ばした。

 クリスとの授業は半分も参加できておらず、ローラのマナー講座もやめた。ウーリクと相談していた領主夫人の予算も、全部ウーリクにお願いして収穫を増やす研究に充ててもらっている。収穫さえ増えれば全ての問題が解決するというものでもないが、他の難しいことは他の人に任せる。

 『領主夫人』は、諦めた。

 ごはんを届けるのだ。ひとりでも多くに。


 色んな人から祈祷のしすぎだと忠告が入る。

 祈祷にしすぎなんてものはない。


「少しは休め。倒れると困る」

「大丈夫よ。倒れる前に鼻血を噴くから、そしたら心配して」

「以前に比べて痩せたんじゃないのか」

「そうなの! 祈祷にダイエット効果があるなんて知らなかったわ! 食欲もあるし体調も良いの」

「心身の健康のために休息は必要だろう」

「それ、ジグルドがいつも言われてることじゃない。だいたいジグルドよりは休息とってるのよ」

「力尽きて横たわっているのは療養であって休息とは言わない」


 ジグルドの言葉すら聞かないアルマを止められる者はいない。正直少しハイになっている自覚はある。一度、馬車を出してもらえなかったので乗れない馬に乗ろうとして落ちた。


 秋の波の間際になって無茶をしたアルマは、お約束のように痣だらけになって寝込んだ。秋の波は春の波ほどではなくても作物への影響が大きい。なんとかジャガイモと春小麦の盛んな地域へ届けられた。次の春の収穫が楽しみだ。


 そんな折、調べ物を頼んでいたウーリクから報告があった。

 何十年も前の大森林の魔獣に関する書物に、当時の祈祷師たちの様子が記されていたというのだ。

 ウィンターハーンには大森林に遺棄されている砦がある。何のための砦なのかよく分からず、大森林の中にあるため調査もされていない古い砦。書物の記載から推測するに、どうやら祈祷のためのものだったらしい。調査隊が組まれて砦を捜索したところ、残された記録書を発見し、毎年何回か祈祷師が砦に籠っていたことが判明した。道程に護衛がいるうえ周囲に食糧などを調達できる場所もないため、事前に籠る準備をして向かっていたようだ。

 アルマが同行した調査で、この砦の場所がウィンターハーンの霊流の中心だと特定した。領都の神殿と大きな流れで繋がっていて、これまでの祈祷もほぼ最善だったと思われ、アルマは胸を撫で下ろした。


 今年の冬は、アルマもこの砦に籠る。

 アルマはいっそ砦に住むと言ってみたが、長い年月放置されていた砦は生活基盤が整っておらず、とりあえずはひと月の滞在で話は落ち着いた。

 現在大急ぎで砦と井戸の修復がされている。



 収穫祭が間近になった頃、ジグルドの私室に呼び出されて苦い溜め息をつかれた。


「……以前、あなたの体調よりも祈祷が優先だと言ったのは、私が間違っていた。撤回する。頼むから、少し休んでくれ」

「えっ、でも、休む理由もないし」

「クリスが心配している。……不調に気付かなかった私に言われても聞く気がしないのだろうが、心身ともにちゃんと休息をとってくれ。ここのところ、祈祷以外何もしていないだろう」


 クリスが。そういえば毎日のようにお休みして遊ぼうと言ってくる。不調なつもりはないのだけれど。

 あれは遊びたいんじゃなくて、アルマを心配してくれてたのか。クリス天使。マジ天使。


 アルマだってクリスと遊びたい。

 だけど、休めば休んだだけ、祈祷が遅れてしまう……。


「全然不調なんかじゃないわ。寧ろ最近、祈祷がキレッキレよ。ジグルドだって仕事しかしてないじゃない」

「私はずっとこういう生活だから慣れている。あなたはそうじゃない。収穫祭三日目の午後、一緒に遊びに行くからそのつもりでいろ」


 遊び。


 ジグルドに『遊ぶ』なんてコマンドがあったとは驚きだ。


 ジグルドはきょとんとするアルマを睨むように見た。


「………嫌なのか」

「嫌じゃ、ない、けど」

「絢爛なものではないが、本当に久しぶりに祭りらしい祭りになると思う。あなたがそうしてくれた。ウィンターハーンの領民が喜ぶ姿を見ておいてほしい」

「…………分かったわ」


 お祭り、三日目、一緒に回るのか。


 ………………………


 ……………デートじゃん!?


 デート!

 いやぁ、祈祷師、役得だなぁ。



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